ジョヴァンニ・ヴェロネージ監督の『昼下がり、ローマの恋』は、青年、中年、熟年という世代の異なる三人の主人公が体験する恋愛を軽妙なタッチで描いたオムニバス映画だ。
三話のなかでも注目度が高いのは、ロバート・デ・ニーロとモニカ・ベルッチが共演している三本目だろう。確かにそれも悪くはないが、個人的には一本目と二本目の方が物語のひねりが巧みで、かなり楽しめた。
若気の至りを描く一本目。ローマに暮らし、恋人サラと結婚するつもりの野心的な青年弁護士ロベルトが、農場の立ち退き交渉を命じられ、トスカーナの田舎町に出張するが、そこで出会ったゴージャスな美女ミコルに心を奪われ、骨抜きになってしまう。
この話の面白さは、たとえば、レオナルド・ピエラッチョーニ監督の『踊れトスカーナ!』を思い出してみればわかりやすい(なぜこの作品を想起したのか考えてみたら、ピエラッチョーニと共同で脚本を手がけていたのは、ヴェロネージその人だった)。
『踊れトスカーナ!』に描かれているように、普通はどうしようもなく退屈なトスカーナの田舎町に、外部から日常を忘れさせるような美女がやってきてというのが基本形だが、このエピソードはその図式をひっくり返して、退屈なはずの田舎町の方になぜか自由奔放な謎の美女がいる。
もちろんそのミコルは、ロベルトが勝手に期待し、想像しているようなミューズではない。最終的に彼は綱渡りを強いられ、冷や汗をかくことになる。
そんな第一話からわかるように、このオムニバスでは、主人公の前に現れる謎のミューズの見せかけと正体の落差がひとつのポイントになる。そして、その落差が最も大きいのが中年の危機を描く第二話だ。
有名なニュースキャスターのファビオが、セラピストを自称する美女エリアナに出会い、彼女の巧みな誘惑に屈してしまう。やがて彼女の正体が明らかになり、 ファビオは天国から地獄に突き落とされ、泥沼であがくことに…。
ファビオにとってはかなり悲惨な状況だが、この役を演じるカルロ・ヴェルドーネがおかしくて、ついつい笑ってしまう。だが、最後に美女が素顔を見せたときに、またもドラマのトーンが変わるところが印象深い。
これに対して、デ・ニーロとベルッチの第三話は、物語のひねりが弱く、ヒロインの見せかけと本当の姿の落差にもそれほど意外性がない。
ちなみに、この第三話には、二話のファビオがさらに悲惨な状況に陥っているエピソードがテレビのニュースとして挿入されるのだが、一体彼はどうなってしまうのか。あまりに気の毒なので、エンディングにでも救いの手をさしのべてほしかった。
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