『ビューティフル・ピープル』は、ボスニア出身で、93年にイギリスに帰化したジャスミン・ディズダー監督の長編デビュー作である。この映画ではロンドンを舞台に五つのエピソードが絡み合っていく。
紛争の悲劇を妊娠というかたちで背負い、ボスニアから逃れてきた若い夫婦、同郷のクロアチア人とセルビア人、ボスニア症候群にかかるテレビ局の海外特派員、上流階級の女医、
フーリガンの若者など、ボスニア難民と階級も地位も異なるイギリス人たちの様々な交流が描かれていく。そのドラマには当然ボスニア紛争が様々なかたちで反映されているが、この監督のアプローチは実にユニークだ。
たとえば、希望もないフーリガンの若者は、ヘロイン漬けで熟睡しているうちに、奇妙な成り行きで救援物資とともに紛争の真っ只中にパラシュート降下している。彼が持っていたヘロインは意外なところで人命救助に役立ち、人間が変わった彼は失明した戦争孤児を連れて祖国に戻ってくる。
かと思えば、ボスニアで血みどろの争いを体験してきたある難民は、
イギリス社会や偶然の出会いがきっかけで入り込んだ上流階級の世界で、これまでとはまったく別な意味でのサバイバルを余儀なくされる。ディズダー監督は、そんなふうにして異なる視点から社会や紛争をとらえていく。
しかしこの映画の最大の魅力は、そんな個々の登場人物だけではなく、彼らの家族にまで視野を広げ、最終的には家族の意味まで問い直してしまうところにある。現代の日常のなかで外部を喪失し、閉塞的な状況にある家族たちは、それぞれに紛争を身近なものとして内部に取り込むことによって、各人が見失っていた個に立ち返る。そして、血の繋がりではなく、お互いを必要とする者同士が新たな枠組みを作り上げていくのである。
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