1999年度カンヌ映画祭で大きな注目を集め、「ある視点」部門のグランプリを受賞した『ビューティフル・ピープル』。新鋭ジャスミン・ディズダーのこの長編デビュー作では、ロンドンを舞台に、イギリスに逃れてきたボスニアの人々とイギリス人の交流が描かれる。
そのドラマにはボスニア紛争が様々なかたちで反映されているが、この映画の魅力は、立場の違う登場人物ばかりかそれぞれの家族にまで視野を広げ、最終的には家族の意味まで問い直してしまうところにある。
「人生にはいろいろなレベルでの戦争があると思うんだ。軍隊の戦いだけが戦争じゃなく、家庭にも職場にも戦争はある。そういう戦争を衝突させたらどうなるかということに強い関心を持った。だからこの映画では、家庭内で戦争をしている若者が偶然ボスニアに行って、戦争を経験するばかりかそれを持ち帰る。ボスニアで戦った元兵士が、イギリスの上流社会に入り込めば、いかに自分の居場所を見出し、イギリス人というものを理解してそこで暮らせるかどうかが戦争になる。そういう多様な戦争を模索する舞台のひとつが家族だったんだ」
ボスニアで少年時代から映画を撮りはじめ、チェコやフランスを経てイギリスのロンドンに落ち着いたディズダーにとっては、そもそもこの映画を作ること自体が戦争だったといえるかもしれない。
「準備に入ったのは5年前だ。当時のイギリス映画には自分が考えているような表現が見当たらなかったので、こういうやり方もあるんだということを何とかして伝えたいと思った。それはどちらが優れているということではなく、自分がこれまで異文化のなかで培ってきたもの、違う視点を提示したかったんだ。イギリス人を説得するために、英語でわかりやすい台本を書いたり、イギリス人の笑いを理解するように努めたり、いろいろと苦心したよ」
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