ジョン・ゾーンやビル・フリゼル、ウェイン・ホーヴィッツなど、ニューヨークを拠点に音楽のジャンルやメディアの枠を越えたユニークな活動を展開するミュージシャンたちは、海外での評価とは裏腹に、
日本では新作がすぐにリリースされることもなく、ずっと過小評価されてきたのではないかと思う。しかし、そんな海外の評価との開きは、昨年(1990)あたりから徐々に縮まりつつあるようだ。
たとえば、ジョン・ゾーンについては、「復讐のガンマン」や「スピレーン」がリリースされてはいたものの、必ずしも彼の音楽のクロス・メディア的なアプローチがまともに評価されているわけではなかった。
だから、その後に発表された力作「スパイVSスパイ」もすぐに日本盤がリリースされることはなかった。ところが、彼が結成したネイキッド・シティのパワフルな活動が大きな刺激となり、昨年は「ネイキッド・シティ」とともに「スパイ〜」もリリースされ、
しかも年末にはネイキッド・シティが来日を果たし、彼とネットワークを作っているミュージシャンたちがようやく注目されるようになった。
ネイキッド・シティのメンバーでもあるギタリストのビル・フリゼルについても、「ビフォア・ウィ・ワー・ボーン」、「イズ・ザット・ユー?」という素晴らしい近作がなかなか日本でリリースされないような状態だった。
しかし、ネイキッド・シティのメンバーとしての来日につづいて、今年のトウキョウ・ミュージック・ジョイに自己のバンドで来日を果たし、作品の方も作ねから今年にかけて日本盤が登場している。
そして、同じくネイキッド・シティのキーボード奏者として来日したウェイン・ホーヴィッツについても、これまでその作品が日本でリリースされることがなかったが、今回やっと日本盤が登場することになったというわけだ。
ウェイン・ホーヴィッツは1955年、ニューヨーク生まれ。ECMで異彩を放つピアニスト、アート・ランデに師事し、1976年から作曲家/ミュージシャンとして活動を始めている。ホーヴィッツは自己のバンド、ザ・プレジデントを率いて活動する他、
ジョン・ゾーン、ブッチ・モリス、ビリー・バング、ジョディ・ハリス、フレッド・フリスらとのセッションを定期的に行い、また一方では、舞台やダンス、映画の音楽を手がけ、ニューヨークのダウンタウンの新しい音楽シーンを活性化させる存在として注目されている。
ホーヴィッツは、ニューヨークのダウンタウンの音楽的なコミュニティのなかで、自己の音楽性を磨き上げてきたわけだが、かつて彼が創作の場としていたリハーサル・スペース?スタジオ・ヘンリー?にまつわるホーヴィッツのコメントはなかなか興味深い。
「(ジョン・)ゾーンは、初期の作品の大半をそこで演奏した。フリスとフリゼルとブッチ・モリスはいつもそこらにたむろしていて、小さなコミュニティになっていたんだ。ベースのウィリアム・パーカーとブッチとぼくは、ブラック・セイントから出たアルバムをそこで録音した。
それから突然、ヨーロッパからやってきた連中がぼくらに、そこをパフォーマンスのスペースとして使わないかと言い出したんだ。ぼくたちは、背景に異なる感性があった――たとえば、ある連中はぼくと同じようにジャズやブラック・ミュージックの即興が背景にあったし、
他は、アート・ロック、実験的なエレクトロニクス音楽とか。いまは、あの頃よりもお互いのことがよくわかるようになったみたいだ」
ホーヴィッツは、ブラック・セイントからトリオ編成による最初のアルバムをリリースした後で、同じレーベルから、ジョン・ゾーン、レイ・ドラモンド、ボビー・プレヴィットと組んで、?ソニー・クラーク・メモリアル・カルテット?名義でクラークの曲を演奏する『ヴードゥー』をリリースしている。
この作品などは、そうしたコミュニティにおける交流のひとつの成果といっていいだろう。
本作品「ディス・ニュー・ジェネレーション」は、ホーヴィッツのエレクトラからの第1作となる。その内容は、西ドイツのドッシー・レーベルからリリースされた彼の86年の作品「ディナー・アット・エイト」を母体に、同じレーベルからリリースされた87年の「ザ・プレジデント」からの4曲を加えたものである。
彼が1985年に結成したユニット、ザ・プレジデントには、エリオット・シャープ、ビル・フリゼル、デイヴ・ホフストラ、ボビー・プレヴィット、ダグ・ウィーゼルマンといったニューヨークの新しい音楽を志向するミュージシャンたちが参加している。 |