インド洋圏が世界を動かす / ロバート・D・カプラン
Monsoon: The Indian Ocean and the Future of American Power / Robert D. Kaplan (2010)


2012年/奥山真司・関根光宏訳/インターシフト
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(初出:)

21世紀の歴史の流れを決める「広域インド洋の地図」
アメリカの未来とも深く関わるユーラシア大陸の沿岸地帯

 「フォーリン・ポリシー」誌による“100人のグローバルな思索家”に選出された国際ジャーナリスト、ロバート・D・カプランが、グローバリゼーションというありきたりな観点とは異なる独自の視座で、ユーラシア大陸沿岸地帯から現代世界の動きをとらえる。

 カプランは本書につづいて、2012年に『The Revenge of Geography: What the Map Tells Us About Coming Conflicts and the Battle Against Fate(原題)』(12)を発表し、さらに2014年3月には、『Asia's Cauldron: The South China Sea and the End of a Stable Pacific(原題)』(14)が刊行される予定です。

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 「私がこの本で主張したいのは、西は「アフリカの角」から始まり、アラビア半島、イラン高原、そしてインド亜大陸を越え、インドネシア列島とその先の東側まで広がる二一世紀の「広域インド洋の地図」が、二〇世紀で「ヨーロッパの地図」が占めていた立場にとって代わることになるかもしれない、ということだ。もちろん私は二一世紀という時代が二〇世紀ほど暴力的なものにならないことを願うばかりだが、それでも似たような激しさで、どこかで見たことがあるような地理的状況が再現される可能性は残っている。この「リムランド(ユーラシア大陸の政治的・戦略的に重要な沿岸地帯)」――中国の目と鼻の先に存在した中世イスラムの海洋居住圏――において、現在われわれは西洋文明対イスラム文明の緊張や、世界のエネルギー・ルートの中枢、そして平穏ながらも実は熾烈に展開されている、陸海両面での中国とインドの発展などを目にすることができる。アメリカがイラクとアフガニスタンに釘付けになってしまったために「アジアの世紀」の到来がますます早まったとも言えるが、これはわれわれがすでに目にしているような経済面だけの話ではなく、実は軍事面でも同じことが言える」[ 「はじめに」より]

 「ジェット機が飛ぶ情報化時代の現在でも、世界の商船の九〇パーセントと、世界の石油関連物資の三分の二は、海を通っている。つまりグローバル化とは、結局のところコンテナ輸送に依存しているのであり、その世界のコンテナの半分は、インド洋を通過しているのだ。さらに言えば、中東から太平洋近隣まで広がるインド洋のリムランドでは、全世界の石油関連製品の実に七〇パーセントが通過している。ペルシャ湾と南・東アジアを結ぶインド洋のタンカーのルートは年々渋滞してきており、数億人にのぼるインドと中国の人々が世界の中産階級に加わりつつあるため、石油消費が大幅に伸び始めている。」[ 「第1章」より]


◆目次◆

    はじめに ユーラシア大陸の重要な沿岸地帯
  Part I
第1章 垂直に拡大する中国、水平に拡大するインド
  アメリカ後の世界
  インドとイランを並べて考える
  中央アジアの未来を握る
  勢力均衡政治へ
  Part II
第2章 オマーン、多文化の融合
  モンスーンの貿易システム
  コスモポリタニズムの先駆者
  インド洋は支配できない
第3章 西洋とは異なる発展の指標
  「インド洋世界」と「アラビアの砂漠」の統一
  カブース国王の知略、イバード派の教義
  世界最大規模の港湾開発プロジェクト
第4章 海の世界帝国
  とりつかれた冒険
  「インド」とは東方全域のこと
  ポルトガルの文化的影響力
  矛盾に満ちあふれた存在
第5章 バルチスタンとシンド、大いなる夢と反乱
  希望と恐怖をもたらす港、グワダル
  バルチスタン地方とシンド地方の連邦計画
  民族主義運動のリーダーは語る
  カラチが劇的に変わる可能性
  荒れ地のアイデンティティ
  中東全域の文化を凝縮
第6章 グジャラート州、インドの希望と困難
  インドの精神
  「二〇〇二年」事件の爪痕
  インド洋のいたるところに種を蒔く
  国家の威厳の再発明
  モディ州首相との対話
  エリートたちの欲求不満
第7章 インドの地政学的な戦略
  ムガル帝国の残照
  インド政府は中国の台頭をどうとらえているか
  大国インドの脆弱さ
  究極のパラドックス
第8章 バングラデシュ、権力の真空地帯で
  自然災害が促した地元NGOの進展
  なぜイスラム過激派の温床になるのか?
  国家よりも大きいコスモポリタンな世界への入り口
  最悪の場所
第9章 コルカタ、未来のグローバル都市
  カースト制度が弱くなり、民族主義が台頭する
  スラム住民の変貌
  新富裕層の出現、都市のバルカン化
  むき出しの斬新さ
  個人が国家の命運を決めるとき
第10章 戦略と倫理――大インド圏構想の推進
  ネオ・カーゾニズムへの注目
  存在感を増すインド海軍
  タゴールの教え
第11章 スリランカ、インドと中国のはざまで
  中国による援助は成功するか
  キリスト教徒の過激派タミル人
  ラジャパクサ家「王国」の構築
  注目すべきスリランカの位置
第12章 ミャンマー、来るべき世界を読み解く鍵
  要地における少数民族の反乱
  機密扱いの民間活動家たち
  アメリカはミャンマー問題にいかに対処すべきか
  中国とインドが衝突する戦略的戦場
  国家間競争の行方を握る山岳民族
第13章 インドネシア、熱帯のイスラム民主制の行方
  イスラム教の将来を決める国
  アチェと中東の交流
  津波がもたらした和平の後で
  ワヒド前大統領との対話
  改革思想家アブドゥフの大きな影響
第14章 海域アジアの変貌
  二一世紀のマラッカ海峡
  ポルトガルとオランダの植民地主義の違い
  中国系住民への嫌悪感と対外政策
  Part III
第15章 中国の海洋戦略の本質
  アメリカと中国のシーパワー
  逆・万里の長城
  朝貢システムの復活か
  アメリカが目指すべき道
第16章 アフリカをめぐる、統治とアナーキー
  投資なのか、搾取なのか
  野生の都市、海賊の実態
  新興国が協力するチャンス
第17章 最後のフロンティア、ザンジバル
  アフリカの可能性を示す場所
  還インド洋貿易システム
  シラーズの祭り、紅茶商人のルーツ
  アルジャジーラと中流階級の台頭
   
  謝辞
  原注
  脚注
  用語解説
  解説

 
 

 

 

(upload:)
 
 
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