第3期は、アメリカ・ロケを敢行した『BROTHER』、日本的な美に迫った『Dolls』、時代劇の大作『座頭市』。この3作品に共通するキーワードは“様式”だ。北野監督は、兄弟盃のような盃事や指詰めといったヤクザの儀式や慣習、文楽や四季の風景、殺陣や日舞やタップといった様式を作品のなかで強調し、新たな地平を切り拓いた。
第4期は、それぞれ俳優、監督、画家としての自己に目を向けた『TAKESHIS’』、『監督・ばんざい!』、『アキレスと亀』。この3部作で注目すべきなのは、『TAKESHIS’』に2人のたけしが、『監督・ばんざい!』に監督とその分身の人形が、『アキレスと亀』に画家を目指す主人公とその人格を支配するかのようなベレー帽が登場することだ。
北野監督は、そうした二面性を示唆するイメージを通して、生と死、創造と破壊、現実と虚構といった対極にあるものがせめぎあう自己の世界を、距離を置いて見つめなおしている。
そして、その距離は、第5期の幕開けを告げる『アウトレイジ』にも引き継がれているように思える。ギャング映画は北野監督の原点にしてトレードマークだが、この新作には大きな違いがある。
ドラマも台詞もアクションも、省略は影を潜め、饒舌で過剰とすらいえる。これまでは無骨で死に急ぐような武闘派が主人公だったが、この映画では、そんな人物たちと、爪を隠し、器用に立ち回る官僚的な性格を持った人物たちを対置する。あるいは、死と金や権力への欲望を対置する。しかも、双方から距離を置き、俯瞰している。北野監督は、壮絶な下克上の世界を現代社会の縮図として象徴的に表現しているように見える。 |