ジョナサン・デミ・インタビュー
Interview with Jonathan Demme


1989年11月 電話(ニューヨーク―東京)
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――あなたはこのコンピレーションに合わせてビデオを作って、それがテレビで放映されるとか。

JD コニー・チャンの”サタデーナイト”という番組で放送されるんだ。コニー・チャンを知っているかい。彼女はテレビで大人気のニュース・キャスターなんだ。CBSネットワークで土曜の夜のゴールデンタイムに放送されるなんて、まったく興奮してしまうよ。 というのも、アメリカにはハイチの正しい情報がなかなか伝わってこないために、あの国の人々がどんなに素晴らしいかがわかってないんだ。わたしは、ハイチの人々が民主主義を獲得するためにどれほど奮闘してきたのかということに、 アメリカ人ひとりひとりがもっと関心を持たなければいけないと思っているんだ。なぜならアメリカ政府は、国民に対して間違ったお金の使い方をしているからだ。だから土曜のゴールデンタイムの10分間で、ハイチの音楽や向こうの人々との対話を通して、 人々にハイチの魅力を知ってもらえるというのは、わくわくするようなことなんだ。

――あなたの友だちのデイヴィッド・バーンも、ブラジル音楽のコンピレーションを編集したり、アフリカからブラジルに伝わった宗教であるカンドンブレにドキュメントを製作したり、NYのラテン系ミュージシャンを集めたバンド”レイ・モモ”を結成したり、どうもあなたとお互いに影響しあっているみたいですね。

JD ちょうど昨日の晩に、ニューヨークのローズランドでレイ・モモのステージを見たばかりなんだ。すごかったよ。彼があんなにエネルギッシュに歌ったり踊ったりするのを見たのはこれが初めてだよ。あんなに踊りまくっているのを見ると、「ストップ・メイキング・センス」のときは、 抑えていたんじゃないかと思えてくるほどだった。彼とはいい友だちで、お互いに影響しあっているよ。彼はいつも異なるタイプのグループのメンバーたちとのコラボレーションに挑戦して、それを成功させているんだが、それが私には大きな刺激になっているんだ。

――あなたは映画監督のなかでは、音楽のセンスが抜群だと思うのですが、以前、音楽評論をしていたこともあるんですよね。

 



JD わたしは若い頃にお金がぜんぜんなくて、それでも音楽が大好きで、レコード会社からただでレコードをもらうために音楽評論をしていたんだ。音楽はずっと好きだった。いまは45歳なんだけど、ちょうどロックンロールの初期の時代によくラジオを聴いていたんだ。 音楽に関心を持つようになった時期とロックンロールの誕生が重なったために、ものすごい衝撃を受けてしまって。わたしのその後の人生にも影響を及ぼしていると思う。音楽はわたしの映画にとってとても重要な要素なんだ。こうしてわたしの映画作りへの情熱と音楽への情熱を結びつけることができるようになったのは、 本当に嬉しいことだよ。

――あなたが将来、映画化を計画しているラッセル・バンクスの小説『Continental Drift』とハーマン・メルヴィルの『Typee』をもとにした『King of the Cannibal Islands』は、ハイチへの関心と繋がっているようにも思えますが。

JD そのふたつの企画とハイチへの関心はひとつのものだと思う。というのも、わたしは文化や人種、国と国との関係ということに個人的にとても強い関心を持っているんだ。異なる国の人々がうまくやっていくことを考えないと、人類が生き残っていける希望がなくなってしまうのはみんなわかっているはずだ。 そして、このふたつの小説は、どちらも異なるタイプの人物が無理やりひとつの状況に押し込まれて、そのなかで力を合わせて苦境を乗り切るというような物語なんだよ。

――他に新作の予定はあるんですか。

JD 2週間前から新作の撮影に入っているんだ。タイトルは『Silence of the Lambs(羊たちの沈黙)』で、アメリカのベストセラーになったトマス・ハリスの小説の映画化なんだ。これはものすごく恐ろしいサイコ・スリラーで、キャストはジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンスにスコット・グレンだ。 ジョディは若いFBIエージェントの役で、若い女性の皮膚をはがす連続殺人鬼を追っている。スコット・グレンもFBIで、フォスターのボスの役。アンソニー・ホプキンスは、カニバルで、かつては有能な精神科医だったんだが、カニバルであることが露見して投獄されている男なんだ。物語のポイントになるのは、 フォスターがホプキンスの力を借りて犯人を探すというところ。ホプキンスは元精神科医だから、犯人の心理がよくわかっているんだよ。

――あなたの映画「サムシング・ワイルド」で、保守的なヤッピーの主人公を現代の荒野に引っ張りだすような展開が実に鮮やかだと思ったのですが。

JD 日本とかアメリカといった資本主義の国にはよくあることだけど、地位とか名声とかお金が幅をきかせている世界にあまり長くいすぎると、人は人間性を失ってしまい、そうした世界から離れてみると人間性の価値が見えてくるんだ。「サムシング・ワイルド」でジェフ・ダニエルズ扮する主人公は、 資本主義のメカニズムに埋没してしまって、自分のハートを見失ってしまったような男なんだ。それをメカニズムの外にいる人間が強引に誘拐する。それが主人公にとっては、メカニズムからの脱出になって、彼は人間性を取り戻していくんだよ。冒険を終えて都市に帰ってきたとき、彼は会社のなかで自分がゾンビのように生きていたことを自覚するんだ。

――2年前にあなたが中心になって組織されたアパルトヘイトに抗議する映画人の団体(Filmmakers United against Apartheid)の活動状況はどうなんでしょうか。

JD これはマーティン・スコセッシとわたしが中心になって組織した団体なんだ。メンバーは150人くらいで、スティーヴン・スピルバーグとかジャック・ニコルソンとか、まあ、アメリカの映画人がほとんど参加しているといっていいだろう。この団体の目的は、アパルトヘイトがつづく限り、 南アで映画の上映をしないように配給会社に働きかけることだ。われわれが望んでいるのは、南アに対する文化的、商業的なボイコットだ。しかし、配給会社と話し合いの機会を作ろうとしているんだが、残念ながら彼らはまだボイコットには応じてくれない。でもこれはいま非常に重要なことで、わたしは世界中の人々がボイコットを表明することを望んでいる。

 こうしてジョナサン・デミの熱のこもった言葉をたどっていくと、彼が、娯楽色の濃い劇映画、社会派的なドキュメンタリー、あるいは映画と音楽といったプロジェクトの別なク一貫した姿勢というかセンスを持っていることがわかってもらえるのではないかと思う。彼は、異なるタイプの人間や文化、 風土との出会いのなかに存在する境界を自分の表現に取り込むことによって、観客(やリスナー)の周囲の状況を異化してみせ、意識の覚醒をうながすのである。つまり、映画「サムシング・ワイルド」でヤッピーの主人公を強引に荒野に引き出すメラニー・グリフィスのキャラクターも、人々に民主主義の意味を問い直すヘイシャン・ミュージック「コンビット」の躍動するリズムも、 ハイチのドキュメンタリーも、彼のなかでは等価なのであり、それがデミの魅力といえる。

 日本でもそんなデミの魅力がもっと受け入れられ、新作がちゃんと公開され、そして「コンビット」の続編が登場することを祈りたい。

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