ブライアン・シンガーにとって監督第2作となる『ユージュアル・サスペクツ』は、体裁はあくまで犯罪映画だが、彼のデビュー作『パブリック・アクセス』を振り返ってみると、その印象が変わってくるはずだ。サンダンス映画祭のグランプリに輝いたこのデビュー作は、残念ながら日本では映画祭のみの公開であまり知られていないが、テーマやその切り口が実に興味深い。
アメリカのありふれたスモールタウンに、ある日、正体不明の男がやって来て、ケーブル・テレビのファミリー・アワーの時間を買い取り、自ら進行役となって住民が電話で自由に参加できる番組を始める。この番組は、求心力を欠いたコミュニティの新たな中心となり、男は、住人たちに挑発的な質問を浴びせることによって、そこにくすぶっている感情をあぶりだしていく。
そして、その先に恐ろしい展開が待ち受けている。中立の立場にあるかのように見えた男は、集団のなかの異分子を排除するようなアメリカの一面を象徴する存在だったことが明らかになるのだ。
「この映画を作るときは、ちょうど大統領選の時期にあたっていて、ぼくは特にロス・ペローの存在に触発された。彼は、大統領候補に名乗りをあげ、7億ドルでテレビの時間を買い取って大統領になろうとしているというようなことを言われていた。そこで、テレビの画面を通して見える演出された虚像と人物の実像について考えだしたんだ。人は、虚像の方で人間を判断してしまうことがある。それが作品のコンセプトになった。たとえば、映画に出てくる謎の男が、眼鏡をつけたときと外したときでは人格が豹変するのは、そういうことのひとつの暗示なんだ」
このデビュー作は、個々の思惑が錯綜する集団が、虚像に磁場をもたらし、気づかぬうちに強大な力を与え、あげくの果てには集団そのものが虚像にからめとられる恐ろしさを描いているといえる。
そして、『ユージュアル・サスペクツ』が非常に面白いのも、共通するテーマが、犯罪ものというまったく異なるジャンルで、カイザー・ソゼという虚像をめぐって緻密に検証されていくところにある。こうしたシンガーのこだわりの出発点は一体どこにあるのだろうか。
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