アレックス・コックス・インタビュー
Interview with Alex Cox


2008年
サーチャーズ2.0/Searchers2.0――2007年/アメリカ/カラー/96分/ヴィスタ/VIDEO
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(初出:「キネマ旬報」2009年1月下旬号)

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 そんな親子の関係を印象的なものにしているのが、マリファナとプロザック(抗うつ剤)だ。メルはマリファナに、デライラはプロザックに依存しているが、旅立つときにふたりともそれを忘れてきてしまう。

「それはとても興味深い。素晴らしい解釈だ。無意識のうちにそういうふうに考えていたのかもしれない(笑)。確かにその通りだ。親子はそれらを使って現実逃避していた。私やメルの世代だったら、厳しい現実から逃れるためにマリファナが欲しくなるし、デライラのような若い世代ならプロザックが欠かせない。それらが不要になって、親子が絆を取り戻すというのはよくできた話だ。但し、彼らがロサンゼルスに帰ったら、これまでと同じ生活に逆戻りしてしまうかもしれないけど(笑)」

 以前コックスにインタビューしたとき、『エル・パトレイロ』とシュールレアリスムの関係について語り合ったことがあるが、この新作にもそんな繋がりあるように思える。

「たとえば、『レポマン』や『デス&コンパス』の舞台は、マッドでクレイジーではあっても、そういう世界として統一されていた。それに対して、『エル・パトレイロ』とこの新作は、純正のシュールレアリスム映画だといえる。どちらの映画にも夢らしきシークエンスがあるけど、それが夢とは限らない。夢と現実が複雑に入り組んでいて、明確に分けることができないんだ。フレッドは夢らしきシーンで足を罠に挟まれて動けなくなるけど、それに続く現実らしきシーンでもまだ足を引きずっている。それから、夢らしきシーンに現れたゴルフマニアの男が、最後には現実らしきシーンにそのまま現れる。演じる俳優は、そういうシーンが現実か夢かわからなくて困っていたけど、私にも納得のいく説明ができないので、とにかくやってくれと(笑)。私にとっては、リアイティではなく、非合理的で意味が通らないことがとても重要なんだ」

 コックスは、ルイス・ブニュエルを題材にした映画を企画するほどシュールレアリスムに傾倒しているが、どんなところに魅力を感じているのだろうか。

「シュールレアリスムは、現実を異なる視点からとらえ、表現する機会を与えてくれる。現実の世界では、車を運転しようとすれば正しい車線を走らなければならない。『アンダルシアの犬』の有名なシーンに描かれていることを実際にやったら犯罪になる。でも映画のなかでは、新たな意味や異なる考え方を引き出すことができる。ブニュエルは偉大なシュールレアリスムの芸術家だったけど、普段はまともな生活をしていた。低予算の映画作家だったところは私と同じだ(笑)」

 さらに、コックス作品のもうひとつの特徴も見逃すわけにはいかない。たとえば『レポマン』では、ローンを払えない顧客から車を取り戻すレポマンを通してアメリカの消費社会が、この新作では、復讐を通して政治や石油資本や巨大メディア産業が見えてくる。

「まったくその通りだ。私が描いているのは、突き詰めればレポマンとか警官とかビジネスマンとか俳優という仕事≠ネんだ。私の映画には悪者もほとんど登場しない。新作のフロビシャーも、メルとフレッドの話を聞くと伝説になるような悪者を想像させるけど、実際にはTシャツを売ろうとしているだけの男だ。私は主人公たちを取り巻く環境、彼らがそこに組み込まれ、仕事を通してサバイバルしようとする社会的、経済的な構造をとらえることに興味があるんだ」


◆プロフィール◆
アレックス・コックス
1954年12月15日生まれ。イギリス、リヴァプール出身。オックスフォード大学で法律を学び、その後ブリストル大学、UCLAで映画を研究。1983年長編デビュー作『レポマン』を発表。後に「1983年以降のカルト映画名作25」では3位に選ばれている。1985年『シド・アンド・ナンシー』の監督を務めた。この2本の成功で瞬く間に彼は、ハリウッドで”時の人”となる。しかしその後は独自の映画路線を追い求めるようになる。その道は彼をスペインのアルメリアへと導き、修正主義者のカルトムービー『ストレート・トゥ・ヘル』を監督。1987年のレーガン政権時、ニカラグアにてサンディニスタ政府と共に反帝国主義映画『ウォーカー』を制作。ユニバーサル・ピクチャーズ出資であるにもかかわらず、痛烈なアメリカ批判を行った。しかしアレックス・コックスは映画製作を止めず、近年では2002年にリヴァプールを舞台にした『リベンジャーズ・トラジディ』を発表。今後の活動予定としては2009年撮影開始予定、名作『レポマン』の女バージョン、その名も「REPO CHICK」。
(『サーチャーズ2.0』プレスより引用)



 この新作では、主人公たちの会話のなかに、アル・ゴアとマイケル・ムーアの名前が出てくるが、コックスはふたりのことをどのように見ているのだろうか。

「アル・ゴアは世界最大の偽善者だと思う。彼は八年間ホワイトハウスにいて、環境についてなにもやらなかった。副大統領公邸はイギリス大使館の隣にあるんだけど、公邸の裏にあるヘリポートでは、ヘリのエンジンがいつもかけっ放しになっていた。彼は公邸を去ってから、平和の使者になった。その代わりに今度はチェイニーがやってきた。チェイニーはモンスターで大魔王だけど、石油目当ての戦争でもバイオ燃料や情報基盤整備の政策でも、やっていることがはっきりわかる。ゴアは日和見主義で偽物の最悪の政治家だと思う。だからチェイニーの方が付き合いやすい。少なくとも彼は偽善者ではないからだ。
 マイケル・ムーアのドキュメンタリーには問題があると思う。それは現代のドキュメンタリーの問題でもある。キャラクターが作品の顔になっているということだ。私が関心を持っているのはあくまで題材やテーマなのに、野球帽をかぶったどうでもいいキャラクターがしゃべったり、仕切ったりするので、テーマに集中することができないんだ。私はもっとシンプルでストレートに対象に迫っていくべきだと思う」

 コックスの初期の作品『ストレート・トゥ・ヘル』のエンディングには、ジョークで『バック・トゥ・ヘル』という映画の予告編がついていた。その『ストレート・トゥ・ヘル』が、かつてブロンソン主演の西部劇のために作られたセットで撮影されたことなどを思い返してみると、『捜索者』ゆかりの地で撮影されたこの新作は、『バック・トゥ・ヘル』に相当する作品と見ることもできそうだが。

「面白いことに、冒頭の場面でフレッドがテレビで観ているのは『ストレート・トゥ・ヘル』なんだ。しかも、自分が出ている場面を観ている(笑)。確かに、デル・ザモラ、エド・パンシューロ、サイ・リチャードソンというキャストも同じだし、ロケ地も砂漠だし、そういうふうに見ることは可能だ。但し、『ストレート・トゥ・ヘル』はかなり弾けていて、可笑しくて、誇張があるのに対して、新作はよりナチュラルで抑制されているけどね」

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(upload:2009/03/25)
 
 
《関連リンク》
アレックス・コックス 『サーチャーズ2.0』 レビュー ■
『レポマン』 レビュー ■

 
 
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