韓国の女性監督イ・スヨンの長編デビュー作『4人の食卓』は、体裁はホラー映画だが、その緻密な構成と象徴的な映像には、韓国社会を徹底的に解剖しようとする野心が表れている。
結婚を間近に控えたインテリア・デザイナーのジョンウォンは、林立する高層住宅と未開発の丘陵がコントラストをなすニュータウンに暮らしている。ある日、地下鉄で帰宅する間に居眠りをしていた彼は、慌てて下車した後で、座席で眠ったままの二人の子供の存在に気づく。だが、駅員に知らせることもなく帰宅してしまう。その翌日、彼はニュースで地下鉄の車内から二人の子供の死体が発見されたことを知る。
そして奇妙なことが起こる。ジョンウォンが目撃した子供たちの霊が、彼の家の食卓に現れる。だが、彼の婚約者にはそれが見えない。その霊の存在は、最初は彼の罪悪感と結びついているように見える。だが、ニュースの続報で、子供たちが母親に毒殺されたことが明らかになっても、霊は消え去らない。子供の頃に事故にあった彼は、7歳までの記憶がないが、次第に断片的に甦る悪夢にも悩まされるようになる。
やがてジョンウォンは、同じように子供たちの霊が見える女性ヨンに出会う。母親が霊媒師だった彼女には、過去を見る能力があった。そんなヨンの力で、彼のなかに、貧しい平屋が密集する少年時代の世界が甦る。しかし、彼と暮らす父親と妹は現在の家族とは別人だ。父親は彼に暴力を振るい、妹は怯えている。彼はその苦しみから逃れるために、取り返しのつかない過ちを犯してしまう。こうして過去は甦るが、それはある意味で序章に過ぎない。
この物語が目指しているのは、真実を明らかにすることではない。甦った過去を当人が受け入れれば、それは真実になるが、受け入れるとは限らない。それを信じるかどうかで、過去は真実にも虚構や妄想や幻想にもなる。実際、ジョンウォンとヨンの周囲では、真実と虚構のすり替えが繰り返されている。
ヨンは以前に、育児ノイローゼになった友だちが、高層住宅のベランダから彼女の息子を落として死なせるという悲劇に見舞われ、事件の裁判が始まっている。その裁判の裏では、ヨンの夫が、事件の証人であるマンションの管理人に強請られている。そしてこの夫は、いつも信じ難い話を繰り返す妻よりも、管理人の言葉を信じ、手を打つ。つまり、妻を守ると同時に裏切ってもいる。
一方、聖職者であるジョンウォンの父親は、新しい教会を建てるために、息子の婚約者の父親から資金援助を受けていた。そんな父親は、息子の過去の問題で波風が立つよりも、教会の繁栄を望んでいるように見える。 |