ウォール・ストリート
Wall Street:Money Never Sleep  Wall Street: Money Never Sleeps
(2010) on IMDb


2010年/アメリカ/カラー/133分/シネマスコープ/ドルビーSR・SRD・DTS
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(初出:「English Journal」2011年3月号、若干の加筆)

 

 

アカデミー賞主演男優賞に輝いた『ウォール街』から23年
“欲望の権化”ゴードン・ゲッコーはどんな復活を遂げるのか

 

※以下のレビューは、『ウォール・ストリート』公開時に雑誌のマイケル・ダグラス・インタビューに合わせて書いたテキストですので、ダグラス寄りの内容になっています。

 マイケル・ダグラスは一風変わった俳優だ。名優カーク・ダグラスを父に持つ彼は、1960年代末から映画やTVドラマに出演するようになり、すでに40年近く第一線で活躍しつづけている。出演作も当然かなりの数に上る。

 だが、その足跡を振り返ってみても、人々が共感や好感を持つようなキャラクターがあまり見当たらない。『危険な情事』(87)や『氷の微笑』(92)、『ディスクロージャー』(94)といったセンセーショナルなスリラーを思い出し、セックス絡みの題材が目立つ俳優という印象を持っている人もいるはずだ。

 にもかかわらずダグラスがトップスターとして揺るぎない地位を築いているのはなぜなのか。アクの強い個性や演技力もその要因に違いないが、プロデューサーとして活躍してきたことも見逃せない。

 彼は『カッコーの巣の上で』(75)を皮切りに、『チャイナ・シンドローム』(79)、『レインメイカー』(97)、『フェイス/オフ』(97)といった話題作を世に送り出してきた。そんなプロデューサーの価値観やバランス感覚が、俳優としての作品選択にも反映されている。だから自分の演じるキャラクターが共感を得られるかどうかは必ずしも重要ではないのだろう。

 オリバー・ストーン監督の『ウォール街』(87)に登場する冷酷非情なカリスマ投資家ゴードン・ゲッコーは、そんなダグラスが生み出した最も有名なキャラクターだ。彼はこの欲望の権化を完璧に体現し、アカデミー賞の主演男優賞を獲得した。

 そればかりかゴードン・ゲッコーは一人歩きを始め、様々な場所や状況で引用される欲望の代名詞となった。たとえば、スパイク・リー監督の『25時』(02)には、主人公が愛する街ニューヨークを破壊した者たちを羅列する場面があり、そこに「ゴードン・ゲッコー気取りのブローカーども」という言葉が含まれている。


◆スタッフ◆
 
監督   オリヴァー・ストーン
Oliver Stone
脚本 アラン・ローブ、スティーブン・シフ
Allan Loeb, Stephen Schiff
製作 エドワード・R・プレスマン
Edward R. Pressman
撮影 ロドリゴ・プリエト
Rodrigo Prieto
編集 ジュリー・モンロー、デイヴィッド・ブレナー
Julie Monroe, David Brenner
音楽 クレイグ・アームストロング
Craig Armstrong
 
◆キャスト◆
 
ゴードン・ゲッコー   マイケル・ダグラス
Michael Douglas
ジェイク・ムーア シャイア・ラブーフ
Shia LaBeouf
ブレトン・ジェームズ ジョシュ・ブローリン
Josh Brolin
ウィニー・ゲッコー キャリー・マリガン
Carey Mulligan
ジュリー・スタインハルト イーライ・ウォラック
Eli Wallach
シルヴィア・ムーア スーザン・サランドン
Susan Sarandon
ルイス・ゼイベル フランク・ランジェラ
Frank Langella
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(配給:20世紀FOX)
 

 その『ウォール街』から23年、ストーンとダグラスが再びタッグを組んだ『ウォール・ストリート』(10)で伝説の男がスクリーンに甦る。物語はインサイダー取引の罪で服役していたゲッコーが出所するところから始まる。ゼロから再出発する彼は果たしてどんな復活を遂げるのか。

 興味深いのは2作品の背景の違いだ。レーガン政権が投資を促すために規制緩和を進め、金融資本主義が猛威をふるう80年代を背景にした『ウォール街』では、登場人物の関係が明確な図式を形作っていた。それぞれに“欲望”と“勤勉”を象徴するゲッコーと自分の父親の間で、成功を夢見る若者がモラルを問われ、苦しみながら壁を乗り越えていく。

 これに対して2008年のリーマン・ショックを背景にした『ウォール・ストリート』では、すでに金融界全体に欲望が蔓延し、矛盾が激しい勢いで噴き出し、公的資金に頼って生き延びるところまで墜ちていく。そんな状況のなかで、復活を期すゲッコーと、彼の娘でジャーナリストのウィニー、彼女の婚約者でクリーン・エネルギーへの投資を進めるトレーダーのジェイコブという三者が、1億ドルの資産をめぐって複雑に絡み合う。

 つまりこの映画では、ウィニーとジェイコブが象徴する“正義”と“理想”、あるいは家族と向き合うゲッコーが、あくまで欲望に生きるのかどうかを問われることになるのだ。


(upload:2014/05/06)
 
 
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