※以下のレビューは、『ウォール・ストリート』公開時に雑誌のマイケル・ダグラス・インタビューに合わせて書いたテキストですので、ダグラス寄りの内容になっています。
マイケル・ダグラスは一風変わった俳優だ。名優カーク・ダグラスを父に持つ彼は、1960年代末から映画やTVドラマに出演するようになり、すでに40年近く第一線で活躍しつづけている。出演作も当然かなりの数に上る。
だが、その足跡を振り返ってみても、人々が共感や好感を持つようなキャラクターがあまり見当たらない。『危険な情事』(87)や『氷の微笑』(92)、『ディスクロージャー』(94)といったセンセーショナルなスリラーを思い出し、セックス絡みの題材が目立つ俳優という印象を持っている人もいるはずだ。
にもかかわらずダグラスがトップスターとして揺るぎない地位を築いているのはなぜなのか。アクの強い個性や演技力もその要因に違いないが、プロデューサーとして活躍してきたことも見逃せない。
彼は『カッコーの巣の上で』(75)を皮切りに、『チャイナ・シンドローム』(79)、『レインメイカー』(97)、『フェイス/オフ』(97)といった話題作を世に送り出してきた。そんなプロデューサーの価値観やバランス感覚が、俳優としての作品選択にも反映されている。だから自分の演じるキャラクターが共感を得られるかどうかは必ずしも重要ではないのだろう。
オリバー・ストーン監督の『ウォール街』(87)に登場する冷酷非情なカリスマ投資家ゴードン・ゲッコーは、そんなダグラスが生み出した最も有名なキャラクターだ。彼はこの欲望の権化を完璧に体現し、アカデミー賞の主演男優賞を獲得した。
そればかりかゴードン・ゲッコーは一人歩きを始め、様々な場所や状況で引用される欲望の代名詞となった。たとえば、スパイク・リー監督の『25時』(02)には、主人公が愛する街ニューヨークを破壊した者たちを羅列する場面があり、そこに「ゴードン・ゲッコー気取りのブローカーども」という言葉が含まれている。 |