アメリカの金融の中心地、ウォール街ではレーガン時代に規制緩和が進み、壮絶なマネーゲームが繰り広げられるようになった(※1)。オリヴァー・ストーンの『ウォール街』は、異様な熱気に満ち、欲望が剥き出しになった世界を見事に切り取っている。
85年のウォール街。上昇志向に駆り立てられる若き証券マンのバドは、下積みからはい上がって巨万の富を築いたカリスマ投資家ゴードン・ゲッコーに心を奪われている。面会すら難しいゲッコーに取り入るために、父親が働く航空会社の情報を渡した彼は、信頼を勝ち取り、有能な右腕となる。だが、華々しい成功と引き替えに違法行為に手を染め、泥沼にはまっていく。
ストーンと脚本家のスタンリー・ワイザーは、ウォール街でリサーチを行い、脚本を書き上げた。この映画で最も強烈な印象を残すのはゴードン・ゲッコーの存在だが、そこにもリサーチの成果が表われている。そのモデルになったのは、赤貧から身を起こしてウォール街に君臨し、86年にインサイダー取引で逮捕されたアイヴァン・ボウスキーだ。
ゲッコーがテルダー製紙の株主総会で行うスピーチ(そのなかで欲を肯定、賛美する)は、映画のひとつのハイライトだが、これもボウスキーがヒントになっている(※2)。このキャラクターはやがて一人歩きを始め、欲望の代名詞として流通するようになった。
しかし、もし映画の製作の時期が後ろにずれていたら、その物語もキャラクターも大きく変わっていたかもしれない。この映画が公開されたのは87年12月だが、その直前の10月にウォール街は最悪の大暴落に見舞われ、状況が一変していた。そこでストーンはドラマの設定を明確にするために映画の冒頭にわざわざ<1985>というテロップを入れた(※3)。
では、この大暴落まで盛り込めるようなタイミングで製作が進行していたら、どのような世界が描き出されていたのか。あらためてそんなことを考えてみたくなるのは、ストーンがこの映画から23年を経て続編である『ウォール・ストリート』(10)を発表したことと無関係ではない。08年のリーマン・ショックを背景にした続編には、その答えに近づけそうなヒントを見出すことができるからだ。
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