ウォール街
Wall Street  Wall Street
(1987) on IMDb


1987年/アメリカ/カラー/124分/ヴィスタ/ドルビー
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(初出:『80年代アメリカ映画100』)

 

 

異様な熱気に満ち、欲望がむきだしになった世界

 

 アメリカの金融の中心地、ウォール街ではレーガン時代に規制緩和が進み、壮絶なマネーゲームが繰り広げられるようになった(※1)。オリヴァー・ストーンの『ウォール街』は、異様な熱気に満ち、欲望が剥き出しになった世界を見事に切り取っている。

 85年のウォール街。上昇志向に駆り立てられる若き証券マンのバドは、下積みからはい上がって巨万の富を築いたカリスマ投資家ゴードン・ゲッコーに心を奪われている。面会すら難しいゲッコーに取り入るために、父親が働く航空会社の情報を渡した彼は、信頼を勝ち取り、有能な右腕となる。だが、華々しい成功と引き替えに違法行為に手を染め、泥沼にはまっていく。

 ストーンと脚本家のスタンリー・ワイザーは、ウォール街でリサーチを行い、脚本を書き上げた。この映画で最も強烈な印象を残すのはゴードン・ゲッコーの存在だが、そこにもリサーチの成果が表われている。そのモデルになったのは、赤貧から身を起こしてウォール街に君臨し、86年にインサイダー取引で逮捕されたアイヴァン・ボウスキーだ。

 ゲッコーがテルダー製紙の株主総会で行うスピーチ(そのなかで欲を肯定、賛美する)は、映画のひとつのハイライトだが、これもボウスキーがヒントになっている(※2)。このキャラクターはやがて一人歩きを始め、欲望の代名詞として流通するようになった。

 しかし、もし映画の製作の時期が後ろにずれていたら、その物語もキャラクターも大きく変わっていたかもしれない。この映画が公開されたのは87年12月だが、その直前の10月にウォール街は最悪の大暴落に見舞われ、状況が一変していた。そこでストーンはドラマの設定を明確にするために映画の冒頭にわざわざ<1985>というテロップを入れた(※3)。

 では、この大暴落まで盛り込めるようなタイミングで製作が進行していたら、どのような世界が描き出されていたのか。あらためてそんなことを考えてみたくなるのは、ストーンがこの映画から23年を経て続編である『ウォール・ストリート』(10)を発表したことと無関係ではない。08年のリーマン・ショックを背景にした続編には、その答えに近づけそうなヒントを見出すことができるからだ。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   オリヴァー・ストーン
Oliver Stone
脚本 スタンリー・ワイザー
Stanley Weiser
製作 エドワード・R・プレスマン
Edward R. Pressman
撮影 ロバート・リチャードソン
Robert Richardson
編集 クレア・シンプソン
Claire Simpson
音楽 スチュワート・コープランド
Stwart Copeland
 
◆キャスト◆
 
ゴードン・ゲッコー   マイケル・ダグラス
Russell Crowe
バド・フォックス チャーリー・シーン
Charlie Sheen
ダリアン・テイラー ダリル・ハンナ
Daryl Hannah
カール・フォックス マーティン・シーン
Martin Sheen
ルー・マンハイム ハル・ホルブルック
Hal Holbrook
サー・ラリー・ワイルドマン テレンス・スタンプ
Terence Stamp
ケイト・ゲッコー ショーン・ヤング
Sean Young
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(配給:20世紀FOX)
 

 二本の映画には象徴的な人物の図式がある。『ウォール街』では、成功を求めるバドが、“欲望”と“勤勉”を象徴するゲッコーと父親の間でモラルを問われ、葛藤を強いられる。『ウォール・ストリート』では、出所して復活を期すゲッコーと、彼の娘でジャーナリストのウィニー、彼女の婚約者でクリーン・エネルギーへの投資を推進するトレーダーのジェイコブが新たな図式を作る。今度はゲッコーが、“正義”と“理想”を象徴するウィニーとジェイコブと向き合い、欲望に生きるのかどうかを問われるわけだ。

 しかし、この二作品には決定的な違いがある。『ウォール街』ではウォール街がほとんどゲッコーに集約されていたが、『ウォール・ストリート』では公的資金で生き延びる世界とゲッコーは完全に分離している。そして実は87年の大暴落でウォール街を救ったのも連邦政府の支援だった。つまり、87年を知らない『ウォール街』には、幻想がまだ現実だった時代に放たれた底なしの欲望が封じ込められているのだ。

[註]
※1: 「ウォール街の巨富のほとんどは、企業の再編やアメリカ株式会社の再構築から生み出されていた。一般投資家に株式を売る投資運用会社やミューチャル・ファンドも稼ぎは悪くなかったが、「フォーチュン五〇〇」の企業を再編成し、再度担保に入れて解体すれば、それとは比較にならないほどのとてつもない稼ぎになった。こうした操作を可能にしたのが、レーガン時代の公共政策の独占禁止から規制緩和への路線変更だった」ケヴィン・フィリップスの『富と貧困の政治学』(吉田利子訳/草思社)

※2: 「一九八五年九月、ウォールストリートの財界人アイヴァン・ボウスキーがカリフォルニア大学バークリー校の公開講座の聴衆に向かって、「欲張りは結構なことです…」といったとき、彼は喝采を浴びた。さらに「だれもがもうちょっと欲張りになるべきです…うしろめたく思う必要はないですよ」とつけ加えたときには、いっそうの喝采と笑いがあった」ヘインズ・ジョンソン『崩壊帝国アメリカ』(山口正康監修/徳間書店)

※3: 『オリバー・ストーン―映画を爆弾に変えた男』ジェームズ・リオーダン(遠藤利国訳/小学館)


(upload:2014/05/08)
 
 
《関連リンク》
オリヴァー・ストーン 『ウォール・ストリート』 レビュー ■

 
 
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