欲望と暴力が渦巻く“シン・シティ(罪の街)”で、3人の男たちが、それぞれに宿命の女に出会い、愛のために壮絶な死闘を繰り広げる。
凶暴な野獣のような前科者マーヴは、一夜をともにした天使のような娼婦ゴールディの仇を討つため、街の支配者に立ち向かう。過去を消し去った男ドワイトは、娼婦街を仕切るかつての恋人ゲイルを窮地から救い出すために、危ない橋を渡る。最後の正義を体現する老刑事ハーティガンは、8年前に命を救ったナンシーの危機を察知し、彼女を守るために再び立ち上がる。
アメコミ界で絶大な人気を誇るフランク・ミラーの“シン・シティ”を、ロバート・ロドリゲスとミラー自身が共同で監督した『シン・シティ』は、グラフィック・ノベルの映画化というよりは、オリジナルの世界を映像によって忠実に再現しようとする作品というべきだろう。
オリジナルには、徹底的に影にこだわり、黒と白の強烈なコントラストで描き出される様式美があるが、それが映画では、影を強調するモノクロに赤を効果的に挿入するパートカラーの映像で表現される。さらに、それぞれのキャラクターに扮した俳優たちの演技と、CGで加工されたオリジナルの背景や構図が巧みに合成されている。
そのキャラクターのなかで特に印象に残るのは、凶暴な野獣マーヴだろう。特殊メイクで変身したミッキー・ロークは、グラフィック・ノベルから飛び出してきたようにマーヴに成り切り、すぐに彼だとはわからない。
ロドリゲスは、オリジナルのシリーズから、マーヴの物語である第1巻、ドワイトの第3巻、ハーティガンの第4巻をピックアップし、それを結びつけて、ひとつの流れを作り上げていく。映画は、ハーティガンが8年前にまだ少女のナンシーの命を救うところから始まり、マーヴ、ドワイトの物語を経て、再びハーティガンの物語に戻る。
その3人の男たちの物語は、いちおう独立してはいるが、ナンシーや街の支配者などの登場人物がダブるため、その展開とともにシン・シティというダークな世界が浮き彫りになっていく。
さらに、ジョシュ・ハートネット扮するクールな強盗が登場するプロローグとエピローグも、本編を際立たせるアクセントになっている。彼は、女に近づき、口説こうとするかに見えて、瞬時に命を奪い、金を得る。そんなキャラクターが、女のために命を賭ける3人の男たちとのコントラストを生み出しているのだ。
この映画は、グラフィック・ノベルを映像で表現する独自のアプローチを提示しているが、そこに疑問がないわけではない。 |