メキシコ出身の3人の監督アルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ギレルモ・デル・トロによって設立された製作会社<チャ・チャ・チャ>が放つ記念すべき第一弾が、アルフォンソの弟カルロスの初監督作品『ルドand クルシ』だ。
主人公は、メキシコの片田舎のバナナ園で働き、サッカーに熱中する兄弟ベトとタト。彼らの人生はスカウトであるパトゥータの出現によって劇的に変わるが、やがてタトは美女に翻弄され、ベトはギャンブルと麻薬にはまっていく。
VIDEO
VIDEO
この映画は、いろいろな意味でアルフォンソ・キュアロンが監督した『天国の口、終りの楽園。』 を思い出させる。その脚本を兄アルフォンソと共同で手がけていたのがカルロスであり、映画では第三者のナレーションが主人公の男女それぞれの立場の違いを際立たせていく構成が光っていた。
カルロスが監督・脚本を兼ねるこの『ルド and クルシ』でも、巧みな話術や構成が印象に残る。この映画で主人公の兄弟とともに見逃せないが、彼らの人生を変えるパトゥータの存在だ。このいささか怪しげなスカウトは、狂言回しの役割を果たし、物語はある種の“ホラ話”として都合よく展開していくが、気づいてみるとそこに、地方と都市の格差やギャンブルと裏社会などメキシコの様々な現実が映し出されている。スカウトされたクルシへの際どい歓迎には、ラテン・アメリカを象徴するようなホモソーシャル な連帯も垣間見られる。
さらにこの映画では、『天国の口、終りの楽園。』で共演したガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナが兄弟を演じている。
カエルとディエゴは幼なじみで、ともに子供の頃から舞台に立ち、映画の世界でも協力し合い、信頼関係を築き上げてきた。2005年にはふたりで製作会社<カナナ>を設立し、2007年にガエルが『太陽のかけら』 で監督デビューを飾ったときには、ディエゴが製作に名前を連ねていた。
この映画では、そんなふたりが単に主役を演じるだけではなく、おそらくはカルロスにアイデアを提供し、映画作りを楽しんでいるように見える。彼らが演じる兄弟は、サッカーのPK戦で引き裂かれ、クライマックスで再びPK戦で対峙する。そんな展開は、ガエルとディエゴが製作会社を立ち上げるときに、社名をめぐって意見が食い違い、サッカーの勝負で決着をつけたという逸話を思い出させる。
大家族のようなスタッフ・キャストによって作り上げられたこの映画では、単なる馴れ合いではない親密な空気や絶妙の呼吸が生み出され、ドラマを盛り上げている。