この曲は「天国のような場所 ウエストバージニア」という詞で始まるが、車はそれに合わせるように州境を越えて、ウエストバージニアに入る。ところが、それに続くドラマを見ると、ジミーを取り巻く状況が天国とはほど遠いことがわかる。彼は娘との約束をすっぽかしてしまい、彼の前妻ボビー・ジョーは、娘とともに夫が販売店を開くバージニア州リンチバーグに引っ越そうとしている。ジミーの弟クライドは、“ローガン家の呪い”が頭から離れない。
そんな皮肉な展開も明らかに伏線になっている。なぜならこの映画では、一発逆転を狙う強奪計画の成否だけでなく、シャーロット・モーター・スピードウェイでの大仕事を終えて、再びウエストバージニアに戻ったとき、ジミーの状況がどう変化するのかが見所になっているからだ。
この映画には、ジョン・デンバー以外にも様々なミュージシャンの曲が使用されているが、その選択の基準や使い方が面白い。まず気づくのは、ほとんどが60〜70年代の曲で占められていることだ。そのためこのドラマには、時代に縛られないタイムレスな雰囲気が漂っている。
さらに、それらの曲は大きくふたつに分けることができる。ひとつは、よく知られたカントリーシンガーの曲だ。この映画には、導入部と終盤にクライドがバーテンダーとして働く店が出てくるが、そこでは50年代後半から60年代初頭に活躍したパッツィ・クラインと特に60年代から70年代にかけてヒット曲を連発したロレッタ・リンというふたりの女性シンガーの曲が流れている。ジョン・デンバーや彼女たちの曲は、舞台となる土地や主人公たちを意識した選曲といえる。ちなみに、リンの父親もジミーと同じ炭鉱労働者だった。
これに対して、強奪計画の顛末が描かれる中盤では、音楽の傾向ががらりと変わる。そのバックでは、カリフォルニアのサーフロック、イギリスのブルースロック、フェニックスのガレージロックなど、多彩なバンドのマニアックな曲が流れる。そこには統一性がないようにも見えるが、ドラマの重要な分岐点となる強奪計画の始まりと終わりの場面から、音楽的な狙いを察することができる。
ジミーがクライドに計画を打ち明ける場面では、ロックンロールの元祖のひとりであるボ・ディドリーの<Road Runner>が、金を奪った彼らが家や刑務所に戻っていく場面では、ニューオーリンズ音楽の重鎮ドクター・ジョンが、ディドリーのようなスタイルでギターを弾いていた初期の曲<Storm Warning>が流れる。つまり、どこか荒削りで、特徴あるリズムやリフが、ロックンロールのグルーブを生み出すような曲が厳選されているのだ。
そんな曲の数々をバックに繰り広げられる強奪劇は実に痛快だが、終わったかに見えた計画にはまだ続きがある。そこで注目したいのが、真相が明らかにされる終盤の場面で使われている曲だ。そこでは、サザン・ロックのスタイルと社会性のある歌詞で人気を誇ったクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの<Fortunate Son>が流れる。
この曲は、ベトナム戦争に対するプロテストソングとして広く認知されているが、この映画では、異なる意味が引き出されている。曲の歌詞では、持たざる者の立場から、上院議員や富豪や将校を親に持つ“恵まれた息子”の姿が浮き彫りにされる。ここで重要なのは、そんな恵まれた連中が持たざる者を戦地に送ることよりも、彼らの底なしの強欲だろう。そこで思い出されるのは、ジミーが作った強奪計画のルールに「欲張るな」という一項があったことだ。
ジミーは持たざる者だが、だからといって目の前にある大金をすべてせしめようとは思わない。彼にとっては、生粋の南部人らしく、自分が生まれ育った土地に暮らし、家族や仲間と親密な関係を築くことの方が大切なのだろう。 |