リクルート

2003年/アメリカ/カラー/115分/シネスコ/ドルビーSRD
line
(初出:『リクルート』劇場用パンフレット、若干の加筆)
父子の関係に反映される冷戦以後のアメリカ

 社会学者トッド・ギトリンの著書『アメリカの文化戦争』には、アメリカという国家について、著名なジャーナリストだった故ウォルター・リップマンのこんな言葉が引用されている。「アメリカを統一するものは過去に対する憧れや畏敬ではなく、確かな目的意識と子孫にもたらす運命の強い自覚である。アメリカは常に国家であると同時に夢でもあった

 わかりやすくいえば、長い歴史があるヨーロッパの国々が、過去の伝統を基盤としているのに対して、移民が作り上げた新世界であるアメリカは、伝統を遠ざけ、未来への期待や夢に立脚しているということだ。

 こうした価値観は当然、父と子の関係にも反映される。子は父よりもさらに伝統から遠ざかり、未来への期待を具体化する。子は積極的に父を乗り越え、先に進むことによって、アメリカ人としてのアイデンティティをより明確にしていく。そして、アメリカと父と子の関係がこのように結びついているということは、アメリカが道を踏み外したり、道を見失った場合には、それが父と子の関係にも現われることを意味する。

 そこで思い出してみたいのが、『スター・ウォーズ』の最初の三部作だ。この神話的な物語には、ルーク・スカイウォーカーという子が父を乗り越えようとするアメリカ的な父子の図式があるが、それ以前にまず、父子の関係が壊れている。ルークの父親アナキンは、ジェダイの騎士だったが、暗黒面に引き込まれ、ダース・ベイダーとなった。そんな父親の運命には、ヴェトナム戦争が象徴されていると見ることができる。

 ジョージ・ルーカスは、『スター・ウォーズ』の企画に着手する前に、ジョン・ミリアスとともに『地獄の黙示録』の企画を進め、自ら監督するつもりでいた。ところが、フランシス・フォード・コッポラと対立し、結局コッポラが監督することになった。

 完成した『地獄の黙示録』はまぎれもなくコッポラの映画だが、そこにはルーカスの視点を垣間見ることができる。カンボジアの闇の奥に潜むカーツ大佐と彼を殺すために川を遡っていくウィラード大尉の関係は、『スター・ウォーズ』におけるダース・ベイダーとルークのそれと遠くないところにある。つまりルークは、ヴェトナム戦争という暗黒面に囚われた父親と剣を交え、最後の一瞬に暗黒面から父親を取り戻し、彼を乗り越えるのである。

 それでは、いまのアメリカ映画では、アメリカと父と子の関係がどのように結びついているのだろうか。ロジャー・ドナルドソン監督の『リクルート』は、そのひとつの答だが、筆者はこの作品のポイントを明確にするために、他の2本の作品と対比してみたいと思う。キーワードになるのは、“冷戦以後”だ。

 まず1本は、トニー・スコット監督の『スパイ・ゲーム』(01年)。物語は、冷戦終結から間もない1991年に設定されている。CIAの作戦担当官として手腕を振るってきたミュアーは、引退の日を迎えていたが、そこに彼が育て上げたエージェントであるトムが中国で逮捕され、処刑されるというニュースが飛び込んでくる。このドラマには、冷戦以後のアメリカの変化が描きだされている。

 冷戦時代であれば、敵味方の立場は明確だったが、市場主義の時代には、利益だけが優先される。だからCIAは、味方であるトムを見殺しにする決定を下す。しかし、ミュアーは時代の変化に同調するつもりはない。彼は、CIA上層部と渡り合い、トムを救出すると同時に、冷戦時代にトムとの父子的な関係に亀裂をもたらした作戦を見事に補完してみせる。


◆スタッフ◆

監督   ロジャー・ドナルドソン
Roger Donaldson
脚本

ロジャー・タウン、カート・ウィマー、ミッチ・グレイザー
Roger Town, Kurt Wimmer, Mitch Grazer

撮影 スチュアート・ドライバーグ
Stuart Dryburgh
編集 デイヴィッド・ローゼンブルーム
David Rosenbloom
音楽 クラウス・バデルト
Klaus Badelt

◆キャスト◆

ウォルター・バーグ   アル・パチーノ
Al Pacino
ジェイムズ・クレイトン コリン・ファレル
Colin Farrell
レイラ・ムーア ブリジット・モイナハン
Bridget Moynahan
ザック ガブリエル・マクト
Gabriel Macht
ロニー・ギブソン マイク・レルバ
Mike Realba

(配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル)
 


 もう1本は、ウィリアム・フリードキン監督の『ハンテッド』(03年)である。アメリカの特殊部隊の精鋭ハラムは、1999年のコソボの戦場で武勲を立てるが、冷戦以後に起こった民族主義による虐殺は彼の心を蝕んでいる。アメリカに戻った彼は、連続殺人鬼に変貌する。彼に手も足も出ないFBIは、標的を追い詰める伝説の"トラッカー(追跡者)"L.T.に協力を求める。

 彼は、かつて教官としてハラムを鍛え上げた人物でもあった。この映画の冒頭には、ボブ・ディランの<追憶のハイウェイ61>の詞が引用される。その歌詞のなかで、神はアブラハムに、息子をハイウェイ61で殺せと命じる。ハラムを育てたL.T.は、冷戦以後に生まれた狂気に囚われた彼と死闘を繰り広げる。

 『リクルート』に描かれる父子的な関係の意味は、この2本の映画と対比してみると、より明確になる。CIAの教官であり、採用担当者でもあるバークは、ジェイムズと会い、ペルーで消息を絶った彼の父がCIAだったと仄めかし、彼をCIAに引き込む。バークは訓練生となったジェイムズを厳しく鍛え上げ、彼らの間には父子的な信頼関係が育まれていく。しかし、ジェイムズがバークから命じられた特殊任務を遂行するうちに、その関係は次第に揺らいでいく。

 この映画でまず注目しなければならないのは、ジェイムズの父親が消息を絶ったのが、1990年であるということだ。バークはジェイズムを、CIA本部の入口にある殉職者のモニュメントの前に導き、1990年という数字の脇に刻まれた星印を示してみせる。しかし、この年代が特別な意味を持つのは、終盤でバークの狙いが明らかになってからだ。

 『スパイ・ゲーム』のミュアーとこのバークには印象的なコントラストがある。ミュアーは、敵味方が明確だった時代に手腕を振るい、冷戦終結とともに変貌していくCIAから身を引く。バークはそこに残るが、自分の立場に不満を隠せなくなる。彼らはともにCIAの命令系統を個人の意思で操作するが、ミュアーが、過去に決着をつけ、父子的な関係を修復するのに対して、バークは関係を裏切り、莫大な利益を得ようとする。

 そして、『ハンテッド』では、子が時代の狂気に呑まれるのに対して、この映画では、父が市場主義に呑まれ、子と対決することになる。つまり、1990年は、ジェイムズの父親が消息を絶った年であると同時に、冷戦以後に変心するバークの分岐点を象徴してもいるのだ。

《参照/引用文献》
『アメリカの文化戦争 たそがれゆく共通の夢』トッド・ギトリン●
疋田三良・向井俊二訳(彩流社、2001年)
『スカイウォーキング』デール・ポロック●
高貴準三訳(ソニー・マガジンズ、1997)

(upload:2005/05/08)
 
 
《関連リンク》
父と子の神話としての『スター・ウォーズ』 ■
ウィリアム・フリードキン 『ハンテッド』 レビュー ■
ロジャー・ドナルドソン 『ハングリー・ラビット』 レビュー ■

 
amazon.co.jpへ●

ご意見はこちらへ master@crisscross.jp
 


copyright