ベン・スティラー監督・主演の『LIFE!』の主人公は、ニューヨークの伝統ある雑誌「LIFE」のオフィスの写真管理部に勤めるウォルター・ミティだ。不器用な性格ゆえに人付き合いが苦手な彼は、密かに想いを寄せる経理部の同僚シェリルに話しかけることもままならない。そんな彼には極端な空想癖があり、空想の世界では、ヒーローになって大活躍することも、世界中で冒険を繰り広げることもできる。それが退屈な日常をやり過ごす手段になっていた。
だが現実は厳しい。デジタル化の波のなかで「LIFE」の経営は行き詰まり、新たな経営者はリストラの対象としてウォルターに目をつける。そんなとき、「LIFE」の最終号の表紙を飾る大切な写真が見つからないことに気づいた彼は、それを撮影したカメラマン、ショーンを探し出すために旅立つ。北極圏のグリーンランドからアイスランドの火山地帯へ。日常から飛び出すことで、彼の人生に転機が訪れる。
ヴィジュアル化された空想の世界や旅から浮かび上がる非日常の現実世界は確かに見所ではあるが、それだけではない。この映画で最初に注目したいのは、ジェイムズ・サーバーが1939年に「ニューヨーカー」に発表した掌編「虹をつかむ男(The Secret Life of Walter Mitty)」が原作になっていることだ。アメリカではこの作品が読み継がれ、主人公のウォルター・ミティは空想癖のある人物の代名詞になってもいる。だから作り手も、なにを期待されているかわかってこれを作っている。
この映画では、脚本を手がけたスティーヴン・コンラッドの豊かな想像力が光る。彼は、舞台を現代に置き換え、私たちにも馴染みのある「LIFE」誌の写真群と歴史を物語に絡ませている。その「LIFE!」が創刊されたのは1936年。サーバーがこの映画の原作を発表したのと同じ30年代のことだ。30年代末に書かれた小説を現代に甦らせるために、30年代に創刊された雑誌の終焉というエピソードを盛り込む。
この構成はなかなか興味深い。「LIFE」誌はフォトジャーナリズムの黄金時代を築いたが、テレビという新しいメディアが本格的に普及するにしたがって経営が悪化し、休刊と復刊を繰り返したあと最終的に2007年に休刊となった。そこで注目したいのは、アナログからデジタルへの移行と「LIFE」の終焉に象徴される現代における世界とメディアと個人の関係だ。
筆者はこの映画を観ながら、ギリアン・フリンの小説『ゴーン・ガール』のことを思い出していた。そこでは、世界とメディアと個人の関係が以下のように表現されている。 |