2002年に処刑された女性連続殺人犯アイリーン・ウォーノス。彼女の実話を映画化したパティ・ジェンキンス監督の『モンスター』は、マイケル・ウィンターボトム監督の『バタフライ・キス』のアメリカ版といってよいだろう。2本の映画では、女性による連続殺人とともに、ふたりの女性の運命的な出会いや切実で悲痛な愛のかたちが描きだされるが、そんなドラマには深い結びつきがある。
まず注目したいのは、2本の映画の背景が非常によく似ていることだ。『バタフライ・キス』のユーニスは、北イングランドのフリーウェイ沿いのガソリンスタンドを訪ね歩き、女性店員を殺害していく。ジェンキンス監督は、『モンスター』の背景についてこう語っている。「89年のデイトナ・ビーチで目にするものといえば、セブン・イレブンやガソリンスタンドやフリーウェイばかり。緑豊かなフロリダの趣は、全然ないんです」
この画一的で殺伐とした風景は、社会状況と無縁ではない。ウィンターボトムは、ユーニスについてこう語っている。「サッチャーは、この世には社会などなく個人の集合でしかないという迷言を吐いた。その結果、彼女のように社会に紛れていた個人があぶりだされてきた」
だが、映画の冒頭で彼女が、「私はここにいる」とか「私を見て」とつぶやいているように、市場主義の社会から切り捨てられた人間には、誰も振り向きはしない。そんな彼女に振り向くのが、スタンドの店員ミリアムだ。片耳が難聴の彼女は、ユーニスの声だけがよく聞こえるように感じ、最後まで運命をともにしていく。
『モンスター』のアイリーンは、80年代以前から悲惨な人生を歩んできた人間だが、彼女を追い詰めたのはレーガンの時代だといえる。彼女には、社会から疎外されたホームレスやバイカーなど、仲間がいないわけではない。しかし、一般社会に一歩でも踏み出せば、完全に黙殺されるか、くたびれた娼婦として邪険に扱われるしかない。 |