■■ドゥパルドンの少年時代と農民の生活の再発見■■
レイモン・ドゥパルドンが監督した作品は世界的に高く評価されているが、日本ではこれまで映画祭以外では公開されることがなかった。ドゥパルドンは60年代から映画を撮り続けているが、日本初公開作品となる『モダン・ライフ』(08)は、彼のプライベートな世界(あるいは生い立ち)と深く結びついているという意味で特別な作品といえる。
農村で生まれ育ったドゥパルドンは、通信教育で写真を学び、16歳で村を離れ、パリに出て写真家のアシスタントになった。彼がそんな行動に出たのは、農民の息子の宿命から逃れたかったからでもある。その後18歳で通信社に入った彼は、未知の場所への強い憧れも手伝って、ジャーナリストとして世界中を旅してまわるようになる。と同時に映画の製作にも着手し、短編、長編、ドキュメンタリー、劇映画など様々なアプローチで世界を見つめ、映像に刻み込んでいく。
そんなドゥパルドンが過去に目を向けるきっかけになったのが、80年代末にフランスの日刊紙のために農民の写真を撮り始めたことだ。家族単位の小規模農家は、高齢化や後継者不足という深刻な問題を抱えながらも、自然や動物と共に昔ながらの生活を営んでいた。
■■“農民の横顔”三部作のなかで変化する視点や姿勢■■
その農民の生活に自分の少年時代を垣間見たドゥパルドンは、時間をかけて農民たちと信頼関係を築き、映画を撮ることを決意する。そして、『Profils paysans: l’approche(農民の横顔:接近)』(01)、『Profils paysans: le quotidien(農民の横顔:日常)』(05)、『モダン・ライフ』という三部作を作り上げた。
この三部作では、長回しによる静謐な空間のなかに農民たちの姿が映し出されるが、ドゥパルドンの視点や姿勢は変化していく。
『農民の横顔:接近』では、農民たちがよそ者であるドゥパルドンを受け入れるようになったことが重要であり、ドゥパルドンは一定の距離を保って、近くに住む農民同士の会話や農民と精肉業者や獣医とのやりとりを見つめている。そして映画は、ドゥパルドンが特別な思い入れを持って接していた孤独な老農夫の葬儀で終わる。
これに対して『農民の横顔:日常』では、ドゥパルドンが農民に積極的に語りかけるようになる。その問答によって、晩年を迎えた農民たちがこれまでどのように生きてきたのか、様々なかたちで農場を引き継ぐことになった若い世代がこれからどう生きていこうとしているのかが明らかにされる。 |