マイ:暗黒を束ねし者 シーズン1
Mai Season 1


2022年/インド/ヒンディー語/カラー/45分
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(初出:)

 

 

娘を奪われた母親がその死の真相を突き止めるために
医療詐欺とマネーロンダリングの危険な世界に踏み込む

 

[Introduction] 口がきけない自分の娘スプリヤが、トラックにはねられて死亡するのを目の当たりにし、悲しみに暮れる母親シール。だが、トラックの運転手がもらした言葉から、事故ではないのではないかという疑問を持った彼女は、真実を明らかにするために危険な世界へと踏み込んでいく。監督は、これがデビュー作になるアトゥル・モンギアと、『フィッローリ 〜永遠の詩(うた)〜』(17)でデビューしたアンシャイ・ラル。モンギアは原案、共同脚本も手がけている。このドラマのヒントになったのは、モンギアの母親の出身地で、彼が夏休みを過ごしたウッタル・プラデーシュ州にあるシャージャハーンプル。そこは、犯罪者やギャングなどを含めた最悪の人々と、最も善良な人々が共存する場所で、愛情に満ちた家庭を持つ女性が、事情があってどのようにもうひとつのダークな世界に引き込まれていくのかを掘り下げたという。キャストは、娘を奪われた母親シールを、『ダンガル きっと、つよくなる』(16)のサークシー・タンワル、娘のスプリヤを『Galwakdi』(22)のワミカ・ガッビが演じる。

[Story] 娘のスプリヤを奪われた母親シール・チョーダリは、事故の裁判に出廷したトラックの運転手が、法廷の外で彼女に、「ほんとうはやりたくなかった」と漏らしたことから、事故ではないのではないかと疑い、真相究明に乗り出すが、運転手はそれきり口をつぐんでしまう。

 同じ頃、特別警察(SPF)の捜査官ファルークは、裏で医療詐欺とマネーロンダリングを行っている有名私立校の理事ジャワハル、彼の右腕ニーラム、彼女の手下のケシャヴ、プラシャント、シャンカルらの捜査を進めていた。

 シールは、運転手の妻子を尾行し、夫妻の息子が有名私立高校に入学したのを知り、学校のパンフを見て、理事のジャワハルに疑惑を抱く。彼女は、兄が営む薬局で働くかたわら、老人ホームに通って老人たちの面倒を見ていたが、そのなかにジャワハルの母親がいた。そこで夜中に彼に電話し、母親の容態が急変したと伝えて呼び出し、娘の事故のことを追及する。ジャワハルは彼女に襲いかかるが、彼女は準備しておいた鎮静剤を彼に打つ。ところが、彼は深刻な心臓病を抱えていて、そのまま息絶えてしまう。彼女はのっけから抜き差しならない状況に陥るが、意外な人物が彼女に助け舟を出す。

 シールはその後も何度となく窮地に陥るが、薬局の仕事で得た知識と火事場の馬鹿力でそれを乗り越えていく。彼女が真相に向かってどこまでも突き進む背景には、インドの女性問題が見え隠れする。

 たとえば、こんな場面がある。シールは、ジャワハルが所持していた大切な暗号鍵を、それがなんだか知らないまま捨ててしまうが、後にどうしても取り戻さなければならなくなる。そこで、協力関係になったプラシャントとともに医療廃棄物処理場を訪れ、片っ端から袋を調べていくうちに、赤ん坊の遺体を目にしてショックを受ける。


◆スタッフ◆
 
監督   アトゥル・モンギア、アンシャイ・ラル
Atul Mongia, Anshai Lal
脚本 アトゥル・モンギア、
Atul Mongia, Srishti Rindani, Tamal Sen, Vishrut Singh, Amita Vyas
撮影 ラヴィ・キラン・アヤガリ
Ravi Kiran Ayyagari
編集 マナス・ミッタル
Manas Mittal
音楽 サガ・デサイ
Sagar Desai
 
◆キャスト◆
 
シール・チョーダリ   サークシー・タンワル
Sakshi Tanwar
ヤシュ・チョーダリ ヴィヴェック・ムシュラン
Vivek Mushran
スプリヤ・チョーダリ ワミカ・ガッビ
Wamiqa Gabbi
ニーラム ライマ・セン
Raima Sen
プラシャント アナント・ヴィダート・シャルマ
Anant Vidhaat Sharma
シャンカル ヴァイバブ・ラジ・グプタ
Vaibhav Raj Gupta
ファルーク アンクル・ラタン
Ankur Ratan
カルパナ シーマ・パフワ
Seema Bhargava
ジャワハル プラシャント・ナラヤナン
Prashant Narayanan
ケシャヴ オムカル・ジャイプラカッシュ
Omkar Jaiprakash
-
(配給:Netflix)
 

 それが、女児であれば中絶する嬰児殺しだ。たとえば、マラ・センの『インドの女性問題とジェンダー――サティー(寡婦殉死)・ダウリー問題・女児問題』には、以下のように説明されている。

「女性たち自らが、宗教や伝統という名でこの慣習を永続させる助けをしているようだ。多くの女性が自分の人生を生きるに値しないと考え、同じ運命を負わせまいとして女児が殺されている」

 さらに、女性問題からシールのなかに渦巻く激しい感情を想像することができる。彼女と夫ヤシュには、姉のスプリヤと弟のアーチトというふたりの子供がいたが、息子を手放して、兄夫婦の養子にした。娘でしかも口がきけないという不利な立場にあるスプリヤを本人が希望するように医科学大学院まで行かせるには、そのようにして代わりに援助を仰ぐしかなかったのだろう。それを考えると、シールがどんな窮地に陥っても突き進む気持ちがよくわかる。

《参照/引用文献》
『インドの女性問題とジェンダー ――サテ ィー(寡婦殉死)
・ダウリー問題・女児問題』 マラ・セン●

鳥居千代香訳(明石書店、2004年)

(upload:2022/04/22)
 
 
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