イタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチにとって『孤独な天使たち』は、『ドリーマーズ』(03)以来の新作になる。プレスによれば、『ドリーマーズ』の発表後、重い病に苦しめられたベルトルッチは、一時は引退さえ覚悟したが、車椅子の生活を受け入れたことで映画作りへの意欲が再燃したという。
映画の原作はニッコロ・アンマニーティの小説『Io e Te』(日本語版は『孤独な天使たち』)。残念ながらこのアンマニーティという作家の作品は一冊も作品を読んだことがないが、にもかかわらず非常に興味をそそられるものがある。それは彼の小説をガブリエーレ・サルヴァトーレス監督が映画化した『ぼくは怖くない』が忘れがたい印象を残しているからだ。
『ぼくは怖くない』では、南イタリアにある貧しい集落に暮らす少年ミケーレが、ある日、廃屋の裏にある穴のなかに閉じ込められている少年を発見する。深い穴の暗闇で自分はもう死んでいると思い込んでいる少年は、ミケーレを守護天使と呼ぶ。ミケーレはそんな少年を現実に呼び戻そうとするが、逆にミケーレ自身の現実が揺らいでいく。
というのも、この物語の背景には、マッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』で書いたようなイタリアの南北問題があり、ある意味でミケーレ自身がすでに穴のなかに閉じ込められているともいえるからだ。
ベルトルッチの『孤独な天使たち』では、自分を取り巻く世界を受け入れられない少年ロレンツォが、親に嘘をついて密かにアパートの地下室で一週間を過ごす計画を実行に移すが、たまたまそこに長い間会っていなかった異母姉オリヴィアが転がり込んでくる。
この映画における地下室は、『ぼくは怖くない』における穴を想起させる。それは、同じように南北問題が埋め込まれているということではなく、同じように象徴的な意味を持っているということだ。
ではどんな象徴なのか。同時期に公開になるベン・ザイトリン監督の『ハッシュパピー バスタブ島の少女』と比較してみるとわかりやすいだろう。この映画には、“海上他界信仰”を反映した少女のイニシエーションが描き出されている。
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