THE GUILTY/ギルティ
The Guilty


2021年/アメリカ/英語/カラー/91分
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(初出:)

 

 

主人公に幼い娘がいるという設定の変更によって
結末にオリジナルとは対照的な感情と余韻が生まれる

 

[Introduction] サンダンス映画祭で観客賞を受賞し、アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表にも選出されたグスタフ・モーラー監督の長編デビュー作『THE GUILTY ギルティ』(18)を、『トレーニング・デイ』、『イコライザー』、『マグニフィセントセブン』のアントワーン・フークア監督でリメイク。主人公ジョー・ベイラーを演じるのは、『プリズナーズ』『ナイトクローラー』『ゴールデン・リバー』ジェイク・ギレンホール。他に、ライリー・キーオ、ピーター・サースガード、イーライ・ゴリー、イーサン・ホークポール・ダノらが声の出演。舞台は山火事の影響で混乱するロサンゼルスに変わる。

[Story] ある事件をきっかけに現場を離れ、緊急通報センターのコールオペレーターとして勤務する警察官ジョー・ベイラーが受けた1本の通報。通報者の女性が拉致され、危険が迫っていると察したジョーは、声と音だけを頼りになんとか彼女を救おうとするが、その先には思いもよらない真実が待ち受けていた。

[以下、短いレビューになります]

 舞台がアメリカ、山火事の発生によって混乱するロサンゼルスに変わったことを除くと、表面的にはそれほど大きな違いはなく、オリジナルに忠実なリメイクのように見える。

 だが、見逃せないのは、主人公ジョー・ベイラーには、まだ幼い娘ペイジがいることだ。その娘の存在はジョーの心理に多大な影響を及ぼし、結末でオリジナルとは対照的といってもいいような感情や余韻を生み出す。

 ただし、対照的かどうかはオリジナルのラストに描かれる主人公アスガーの行動をどう解釈するかにもよる。すべてが終わり、緊急通報指令室を去っていく彼は、携帯で誰かに電話をする。それが誰なのかは私たちの想像に委ねられている。そして、それが誰なのかによって彼の感情も余韻も変わる。


◆スタッフ◆
 
監督   アントワーン・フークワ
Antoine Fuqua
脚本 ニック・ピゾラット
Nic Pizzolatto
原作 グスタフ・モーラー、エミール・ナイガード・アルベルトセン
Gustav Moller, Emil Nygaard Albertsen
撮影 マズ・マカーニ
Maz Makhani
編集 ジェイソン・バランタイン
Jason Ballantine
音楽 マーセロ・ザーヴォス
Marcelo Zarvos
 
◆キャスト◆
 
ジョー・ベイラー   ジェイク・ギレンホール
Jake Gyllenhaal
エミリー ライリー・キーオ
Riley Keough
ヘンリー ピーター・サースガード
Peter Sarsgaard
リック イーライ・ゴリー
Eli Goree
ビル イーサン・ホーク
Ethan Hawke
マシュー ポール・ダノ
Paul Dano
-
(配給:Netflix)
 

 筆者はその場面を見た瞬間に、妻のパトリシアに電話するのだと思った。オリジナルには、そう思うのが自然な流れがある。そのドラマでアスガーの妻に触れる場面はごくわずかだ。アスガーと上司の通話の終わりに、「パトリシアによろしく」と言った上司に対して、アスガーが、通話が切れてから「出て行ったんで」とつぶやくくらいだろう。

 個人の問題に関して言えば、アスガーは、翌日の法廷での証言を問題なく終え、現場に復帰することしか頭にない。それは妻のことを考えていないということではない。現場に復帰しなければなにも始まらない。復帰が叶いさえすれば、妻との関係も好転すると考えているように見える。

 そして終盤で、通報者の女性イーベンを救おうとすることと、アスガー自身の問題を直視することが、ひとつの場面に集約される。アスガーがイーベンを説得するときには、そこに同僚たちもいるので、罪を認めるアスガーの告白ですべてが変わるといってもいい。その結果、アスガーは空っぽになり、重荷を下ろしたことで、妻と向き合うことが想像される。

 では、リメイクの場合はどうか。主人公のジョーは、すでに導入部でも席を外し、妻のジェスに電話をかけている。彼は愛娘ペイジの声が聞きたくて仕方がない。そのときはメッセージを残すだけだが、中盤には電話で妻と会話する場面もあり、かなり具体的なことを語り合う。

 ジョーの場合は彼自身が家を出て(追い出された?)、転々とする生活を送っているらしい。また、翌日に法廷で証言する事件について、彼の相棒で、同じく証言することになっているリックの家にもFBIの捜査官が現われ、かぎまわっていることも示唆される。ジョーが、その法廷に妻も出廷したほうが心証がよくなると考えていることもわかる。

 ジョーもアスガーと同じように現場に復帰することを望んでいるが、その意味には違いがある。ジョーは、その法廷でなにか手違いがあり、自分が娘と会えなくなることを心の底から恐れている。それはアスガーにはない感情だといえる。

 そのことによって、彼がなんとか救おうとする通報者の女性エミリーや彼女の夫ヘンリーとの距離も変わってくる。愛娘のことを常に気にかけるジョーの立場には、6歳の娘アビーや赤ん坊の弟オリバーのことを気にかけるエミリーやヘンリーと重なる部分がある。

 だから、終盤でジョーがエミリーを説得する場面にも、その違いが反映される。ジョーはエミリーを通して自分の罪を認めるだけではなく、彼女に子供が待っていることを思い出させようとする。

 そして、このリメイクでは、ジョーの重要な告白が、同僚の目の届かない別室で行われるのも頷ける。アスガーの場合は、現場への復帰か罪を認めるかだったが、ジョーの場合は、罪を認めること以外にもうひとつ、受け入れなければならないことがある。娘と会えなくなることだ。

 別室での説得を通して罪を認めたジョーは、まだアスガーのように空っぽではない。トイレに移動した彼は、娘と会えなくなる苦痛と悲しみをこらえながら、相棒のリック、そして彼を取材しようとしていた新聞記者に電話を入れる。

 オリジナルのラストで妻に電話する(であろう)アスガーの姿には、ある種の解放があったが、リメイクのラストにはそれとは対照的な感情が浮かび上がり、対照的な余韻が漂う。

 

(upload:2021/10/09)
 
 
《関連リンク》
グスタフ・モーラー 『THE GUILTY ギルティ』 レビュー ■
ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『プリズナーズ』 レビュー ■
ダン・ギルロイ 『ナイトクローラー』 レビュー ■
ジャック・オーディアール 『ゴールデン・リバー』 レビュー ■

 
 
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