THE GUILTY ギルティ
The Guilty


2018年/デンマーク/カラー/88分/スコープサイズ
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(初出:)

 

 

誘拐事件の真相と主人公が抱えた問題が結びつくとき
”ギルティ”の深い意味が明らかになる

 

[Introduction] 「電話からの声と音だけで、誘拐事件を解決する」というシンプルな設定ながらも、予測不可能な展開で観る者を圧倒させ、第34回サンダンス映画祭では、『search/サーチ』(NEXT部門)と並び、観客賞(ワールド・シネマ・ドラマ部門)を受賞。その後も第47回ロッテルダム国際映画祭 観客賞/ユース審査員賞、第44回シアトル国際映画祭 監督賞の受賞などに加え、世界中の映画祭で観客賞を総なめにした。第91回アカデミー賞®外国語映画賞 デンマーク代表にも選出され、早くも2019年上半期の映画界を席巻する作品としての呼び声が高い。本作が長編映画監督デビュー作となるグスタフ・モーラーは「音声というのは、誰一人として同じイメージを思い浮かべることがない、ということにヒントを得た。観客一人ひとりの脳内で、それぞれが異なる人物像を想像するのだ」と語る通り、人間の想像力を縦横無尽に操るという全く新しい映像表現を見事成功させた。(プレス参照)

[Story] 緊急通報指令室のオペレーターであるアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は、ある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど、些細な事件に応対する日々が続いていた。そんなある日、一本の通報を受ける。それは今まさに誘拐されているという女性自身からの通報だった。彼に与えられた事件解決の手段は”電話”だけ。車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣い・・・。微かに聞こえる音だけを手がかりに、“見えない”事件を解決することはできるのか―。

[以下、短いレビューになります]

 ”レス・イズ・モア(Less is More)”という考え方を映画に当てはめるなら、情報を削ぎ落せば削ぎ落すほど想像をかき立てられるといった意味になる。本作ではそのレス・イズ・モアがとことん突き詰められ、主人公のアスガー・ホルムを窮地に追いやっていく。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   グスタフ・モーラー
Gustav Moller
脚本 エミール・ナイガード・アルベルトセン
Emil Nygaard Albertsen
撮影監督 ジャスパー・スパニング
Jasper J. Spanning
編集 カーラ・ルフェ
Carla Luff
音楽 Carl Coleman, Caspar Hesselager
 
◆キャスト◆
 
アスガー・ホルム   ヤコブ・セーダーグレン
Jakob Cedergren
イーベン イェシカ・ディナウエ
Jessica Dinnage
ミケル ヨハン・オルセン
Johan Olsen
ラシッド オマール・ジャガウィー
Omar Shargawi
-
(配給:ファントム・フィルム)
 

 アスガーが緊急通報指令室で受けた電話からの声と音で得た情報は、車に乗せられている女性イーベンが、別れた夫ミケルに誘拐されてどこかに移動中で、彼女の自宅には6歳の娘マチルデとまだ赤ん坊の弟が残されたままであることを物語る。ミケルには暴行による逮捕歴もあることがわかる。子供たちのことを心配し、イーベンの自宅に電話したアスガーは、ひとりでいるのが怖いというマチルデに、弟の部屋に行って一緒にいるように指示する。それは常識的な判断のように思えるが、後に大きな誤りであったことが明らかになる。

 だが、本作は、アスガーが、声と音だけで緊迫した状況に対処する姿を描いているだけではない。前半部には、事件とは無関係な伏線がちりばめられている。

 アスガーと上司の電話による会話から、アスガーと現場で彼の相棒だったラシードが、翌日、法廷に出て彼らが関わったある事件について証言をすれば、彼は現場に復帰できることがわかる。彼には復帰が待ち遠しかったはずだが、その表情は浮かない。

 職務中に新聞記者から取材の電話が入り、事件を記事にすると聞いて苛立ちを隠すことができない。考え事にふけって電話が鳴っていることにも気づかない。また彼は突然、隣の同僚に、緊急通報指令室に来てからずっと自分が失礼な態度をとりつづけてきたことを謝罪する。上司は「パトリシアによろしく」と言って電話を切るが、その後でアスガーは「出ていったんで」とつぶやく。妻が家を出たことは、翌日の法廷の一件と無関係ではないと思われる。

 明らかに精神的に不安定な状態で、勤務時間も終わろうとしているのにイーベンの事件に深入りしていくアスガーは、密かに協力を求めるために相棒のラシードに連絡をとるが、その相棒は翌日の証言への不安から酒に酔っている。

 そんな伏線は、アスガー自身が大きな問題を抱え、複雑に揺れていることを物語る。本作では、そんなアスガーの問題とイーベンの事件が結びつき、タイトルの”ギルティ”が深い意味を持ち、アスガー自身を変えていくことになる。

※ 本作をリメイクしたアントワーン・フークワ監督の『THE GUILTY/ギルティ』のレビューで、本作とリメイクの内容を比較し、本作の細部にも触れていますので、ぜひお読みください。

 

(upload:2021/10/07)
 
 
《関連リンク》
アントワーン・フークワ 『THE GUILTY/ギルティ』 レビュー ■
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