アスガーが緊急通報指令室で受けた電話からの声と音で得た情報は、車に乗せられている女性イーベンが、別れた夫ミケルに誘拐されてどこかに移動中で、彼女の自宅には6歳の娘マチルデとまだ赤ん坊の弟が残されたままであることを物語る。ミケルには暴行による逮捕歴もあることがわかる。子供たちのことを心配し、イーベンの自宅に電話したアスガーは、ひとりでいるのが怖いというマチルデに、弟の部屋に行って一緒にいるように指示する。それは常識的な判断のように思えるが、後に大きな誤りであったことが明らかになる。
だが、本作は、アスガーが、声と音だけで緊迫した状況に対処する姿を描いているだけではない。前半部には、事件とは無関係な伏線がちりばめられている。
アスガーと上司の電話による会話から、アスガーと現場で彼の相棒だったラシードが、翌日、法廷に出て彼らが関わったある事件について証言をすれば、彼は現場に復帰できることがわかる。彼には復帰が待ち遠しかったはずだが、その表情は浮かない。
職務中に新聞記者から取材の電話が入り、事件を記事にすると聞いて苛立ちを隠すことができない。考え事にふけって電話が鳴っていることにも気づかない。また彼は突然、隣の同僚に、緊急通報指令室に来てからずっと自分が失礼な態度をとりつづけてきたことを謝罪する。上司は「パトリシアによろしく」と言って電話を切るが、その後でアスガーは「出ていったんで」とつぶやく。妻が家を出たことは、翌日の法廷の一件と無関係ではないと思われる。
明らかに精神的に不安定な状態で、勤務時間も終わろうとしているのにイーベンの事件に深入りしていくアスガーは、密かに協力を求めるために相棒のラシードに連絡をとるが、その相棒は翌日の証言への不安から酒に酔っている。
そんな伏線は、アスガー自身が大きな問題を抱え、複雑に揺れていることを物語る。本作では、そんなアスガーの問題とイーベンの事件が結びつき、タイトルの”ギルティ”が深い意味を持ち、アスガー自身を変えていくことになる。
※ 本作をリメイクしたアントワーン・フークワ監督の『THE GUILTY/ギルティ』のレビューで、本作とリメイクの内容を比較し、本作の細部にも触れていますので、ぜひお読みください。 |