[ストーリー] ノルウェーの首都オスロ。元教師のイングリッドは、失明して以来すっかりアパートに引きこもり、窓辺の椅子にじっと座りながら、自分の周囲の出来事をあれこれ心の中に思い描くようになる。昼間勤めに出ているはずの夫のモートンが、実はこっそり部屋に留まり、自分をひそかに監視しているのではないか。あるいは自分に気づかれないように、別の若い女性と浮気しているのではないか――。彼女の妄想はどんどん膨らみ、加速していく。
『ブラインド 視線のエロス』(14)は、ヨアキム・トリアー監督の作品(『リプライズ』、『オスロ、8月31日』)の脚本家としても知られるエスキル・ヴォーグツ監督の長編デビュー作だ。ノルウェーではアカデミー賞にあたる第30回アマンダ賞で、監督、主演女優賞など4部門で受賞しているほか、ベルリンやサンダンスなど、各国の映画祭でも賞に輝いている。
ヒロインは、視力を失った元教師のイングリッド。建築事務所に勤める夫のモートンと暮らしている。失明後、ひとりで外に出ることを恐れるイングリッドは、夫が出勤したあと、アパートに閉じこもって毎日を過ごす。窓辺の椅子に座った彼女はまず、以前の記憶を頼りに周囲の世界を頭のなかに再構築する。しかし次第にそこに、様々な想像が紛れ込むようになる。アパートのどこかで物音がして、それが何の音かわからなければ、あれこれ想像してしまうのは自然なことだろう。
この映画には、夫婦のほかに、エリンとエイナーというふたりの人物が登場する。登場するといっても、現実にではなく、イングリッドの頭のなかに、ということだが、ヴォーグツ監督は現実と幻想の境界を曖昧にしているので、しばしば現実にも見える。
エリンは10年前にスウェーデンからオスロにやって来た女性だ。最近離婚したばかりで10歳の子供がいる。エイナーは自分がやりたいことが定まらない孤独な男性で、ポルノサイトで自分を慰めていたが、それでは満たされなくなり、現実の触れ合いを求めている。 |