ともに映画監督であるクリスとトニーには、かつてパートナーであったミア・ハンセン=ラブとオリヴィエ・アサイヤスの関係がなんらかのかたちで反映されている。本作では、クリスが書き進めている新作の脚本が、劇中劇として映像化される。その主人公は、クリス自身を反映したような映画監督のエイミーで、彼女は初恋の相手であるヨセフと再会する。そんなふたりの会話から、エイミーが彼らの過去の関係を反映した映画を発表していて、ヨセフもそれを観ていることがわかる。
この入れ子の構造では、単に現実と虚構が入り組んでいるだけではない。たとえば、エイミーが監督した映画を観たヨセフが、自分をモデルにした人物が自分より見劣りするというような感想を口にするとき、彼への想いを引きずっているエイミーはその言葉の意味を推し量ろうとしているだろう。
さらに、そういう設定や会話を作ったのはクリスであり、彼女がその脚本の内容をトニーに語って聞かせるのは、監督/脚本家として助言を求めているだけでなく、妻として夫の気持ちを推し量ろうとしているところもある。さらに想像をたくましくするなら、ミア・ハンセン=ラブが記憶をたぐり寄せ、アサイヤスの気持ちを推し量って、本作の脚本を書いていたとも思える。
男女の関係と創作をめぐって、ここまで感情がもつれていけば、終盤で現実と虚構の境界が揺らぎ、時間の流れが曖昧になるのも頷ける。クリスは、現実が反映された虚構と現実に影響を及ぼす虚構の狭間で変貌を遂げていく。 |