ベルイマン島にて
Bergman Island


2021年/フランス=ベルギー=ドイツ=スウェーデン/英語/カラー/113分/スコープサイズ/5.1ch
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(初出:)

 

 

夫婦関係が停滞している映画監督カップルのひと夏の物語
現実が反映された虚構と現実に影響を及ぼす虚構の狭間で

 

[Introduction] スティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシなど、今日の巨匠と呼ばれる映画監督たちに、多大な影響を与えたイングマール・ベルイマン。彼の熱狂的な支持者である、『未来よ こんにちは』でベルリン国際映画祭銀熊賞に輝いたミア・ハンセン=ラブ監督が、ベルイマンの原風景と言われるスウェーデンのフォーレ島を舞台に最新作を撮影。奇岩が屹立した神秘的な自然や郷愁を誘う風車、ベルイマンが公私共に時を過ごした家屋や縁の品々を、存分に映像に収めた作品を完成させた。

 時は現代、主人公は映画監督カップル。クリスは認められてまだ日が浅く、パートナーのトニーは既に名を成しいてる。ミア・ハンセン=ラブ自身と彼女の元パートナーの実体験を彷彿させる二人だ。演じるのは、『ファントム・スレッド』のヴィッキー・クリープスと、『海の上のピアニスト』のティム・ロス。さらに、クリスの次回作の主人公に、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカが扮する。(プレス参照)

[Story] 映画監督カップルのクリスとトニーは、アメリカからスウェーデンのフォーレ島へとやって来た。創作活動にも互いの関係にも停滞感を抱いていた二人は、敬愛するベルイマンが数々の傑作を撮ったこの島でひと夏暮らし、インスピレーションを得ようと考えたのだ。やがて島の魔力がクリスに作用し、彼女は自身の“1度目の出会いは早すぎて2度目は遅すぎた”ために実らなかった初恋を投影した脚本を書き始めるのだが──。

[以下、本作の短いレビューになります]


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ミア・ハンセン=ラブ
Mia Hansen-Love
撮影 ドニ・ルノワール
Denis Lenoir
編集 マリオン・モニエ
Marion Monnier
 
◆キャスト◆
 
クリス   ヴィッキー・クリープス
Vicky Krieps
トニー ティム・ロス
Tim Roth
エイミー ミア・ワシコウスカ
Mia Wasikowska
ヨセフ アンデルシュ・ダニエルセン・リー
Anders Danielsen Lie
-
(配給:キノフィルムズ)
 

 ともに映画監督であるクリスとトニーには、かつてパートナーであったミア・ハンセン=ラブオリヴィエ・アサイヤスの関係がなんらかのかたちで反映されている。本作では、クリスが書き進めている新作の脚本が、劇中劇として映像化される。その主人公は、クリス自身を反映したような映画監督のエイミーで、彼女は初恋の相手であるヨセフと再会する。そんなふたりの会話から、エイミーが彼らの過去の関係を反映した映画を発表していて、ヨセフもそれを観ていることがわかる。

 この入れ子の構造では、単に現実と虚構が入り組んでいるだけではない。たとえば、エイミーが監督した映画を観たヨセフが、自分をモデルにした人物が自分より見劣りするというような感想を口にするとき、彼への想いを引きずっているエイミーはその言葉の意味を推し量ろうとしているだろう。

 さらに、そういう設定や会話を作ったのはクリスであり、彼女がその脚本の内容をトニーに語って聞かせるのは、監督/脚本家として助言を求めているだけでなく、妻として夫の気持ちを推し量ろうとしているところもある。さらに想像をたくましくするなら、ミア・ハンセン=ラブが記憶をたぐり寄せ、アサイヤスの気持ちを推し量って、本作の脚本を書いていたとも思える。

 男女の関係と創作をめぐって、ここまで感情がもつれていけば、終盤で現実と虚構の境界が揺らぎ、時間の流れが曖昧になるのも頷ける。クリスは、現実が反映された虚構と現実に影響を及ぼす虚構の狭間で変貌を遂げていく。


(upload:2022/03/27)
 
 
《関連リンク》
イングマール・ベルイマン
――映画作家たちに引き継がれた、ベルイマンの遺産
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