バリー・シール/アメリカをはめた男
American Made American Made (2017) on IMDb


2017年/アメリカ/カラー/115分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:「CDジャーナル」2017年11月号)

 

 

レーガン時代のCIAの裏工作に深く関わり
麻薬や武器でぼろ儲けした犯罪者を描くブラックコメディ

 

[ストーリー] バリー・シールの世にも奇妙な犯罪人生は、1978年のある日突然、CIAにスカウトされたことから始まった。大手航空会社で磨いたパイロットとしての卓越した技能を買われ、中米のグアテマラやエルサルバドルでの偵察任務を請け負ったバリーは、コロンビアで麻薬王パブロ・エスコバルらと出会ったことをきっかけにコカインの密輸ビジネスにも手を染めていく。

 その後もあれよあれよという間に大空の運び屋稼業を拡張していったバリーは、妻子のために豪邸を建て、札束の隠し場所に困るほどの大金持ちに。ところが栄華を極めたのも束の間、FBIなど複数の捜査機関に追いつめられたバリーは、ホワイトハウスのまさかの介入によって、さらなる想像を絶する運命をたどっていくのだった――。[プレスより]

 『ザ・ウォール』(17)につづいて公開されるダグ・リーマン監督最新作。レーガン時代のCIAの裏工作に深く関わっていたとんでもない犯罪者バリー・シールを風刺を込めて描いたブラックコメディ。以下、本作のレビューになります。

 実話に基づくダグ・リーマン監督の『バリー・シール/アメリカをはめた男』は、大手航空会社に勤める腕利きのパイロット、バリー・シールが、70年代末にCIAにスカウトされるところから始まる。中米地域を空から偵察する活動で瞬く間に成果をあげた彼は、レーガン時代を迎えてさらに危険なビジネスにのめり込んでいく。コロンビアの麻薬カルテルの大物パブロ・エスコバルと組んで、コカインをアメリカに空輸し、CIAが支援するニカラグアの反革命組織コントラには武器を届ける。そんなバリーは巨万の富を築くが、その先に落とし穴が待っている。

 この映画を観ながら筆者が思い出していたのは、ジェレミー・レナー主演の『キル・ザ・メッセンジャー/Kill the Messenger』(14)のことだ。こちらは残念ながら未公開だが、2本の映画は同じ背景をまったく異なる視点から描いていることになる。

 『キル・ザ・メッセンジャー』の主人公は実在の記者ゲイリー・ウェッブ。90年代半ばにCIAが麻薬密売に関与しているという情報をつかんだ彼は、真相を究明するため中米に飛ぶ。そして、80年代に全米に蔓延して問題になったクラック・コカインが、CIAが支援するニカラグアの反革命組織コントラの資金源になっていたことを知る。彼が書いた記事は大反響を巻き起こすが、やがてその信憑性が疑われるようになり、孤立した彼は悲劇的な末路をたどることになる。

 そんな映画は当然、リアルでシリアスなドラマになる。これに対して、『バリー・シール〜』のアプローチやスタイルはまったく違う。この物語は、当時のCIAの裏工作にとんでもない犯罪者が介在していたことを明らかにする。バリー・シールには、密かに空輸したコカインがどんな問題を生み出そうが、冷戦遂行のために裏でどんな手段が行使されようが、どうでもよかったのだろう。リーマン監督は、そんな男の人生を風刺が効いたブラックコメディに仕立てあげている。バリーの悩みは、札束の隠し場所が足りないことなのだ。


◆スタッフ◆
 
監督   ダグ・リーマン
Doug Liman
脚本 ゲイリー・スピネッリ
Gary Spinelli
撮影 セザール・シャローン
Cesar Charlone
編集 アンドリュー・モンドシェイン、サー・クライン、ディラン・ティチェナー
Andrew Mondshein, Saar Klein, Dylan Tichenor
編集 クリストフ・ベック
Christophe Beck
 
◆キャスト◆
 
バリー・シール   トム・クルーズ
Tom Cruise
モンティ・“シェイファー” ドーナル・グリーソン
Domhnall Gleeson
ルーシー・シール サラ・ライト・オルセン
Sarah Wright Olsen
クレイグ・マッコール捜査官 E・ロジャー・ミッチェル
E. Roger Mitchell
ダウニング保安官 ジェシー・プレモンス
Jesse Plemons
ホルヘ・オチョア アレハンドロ・エッダ
Alejandro Edda
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(配給:東宝東和)
 

 ゲイリー・ウェッブとバリー・シールの人生は見事に対照的だが、ひとつだけ共通点がある。実はどちらもその死に不明な点が残されている。そのことが、レーガン時代の裏面史の闇の深さを物語っている。


(upload:2017/11/27)
 
 
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ダグ・リーマン 『ザ・ウォール』 レビュー ■
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