[ストーリー] アニーはニューヨークに住む10歳の少女。身寄りのない子供を補助金目当てで育てている元歌手のミス・ハニガンの家で、同じ境遇の4人の少女と一緒に暮らしている。アニーの宝物は、4歳で置き去りにされたときに両親が残した手紙とハート型のロケット。「すぐ戻ります」という手紙の言葉を信じているアニーは、毎週金曜日、両親が手紙を書いたレストランの前で迎えを待っている。いつかきっと2人が現れると信じて。
そんなある日、野良犬を助けようとして道路に飛び出したアニーは、車にひかれそうになったところをひとりの男性に助けられる。彼の名はウィル・スタックス。携帯電話会社スタックス・モバイルのCEOで、ニューヨーク市長選に立候補しているIT長者だ。潔癖症で仕事人間のスタックスは、アニーのような子供が大の苦手。だがそんな彼も、アニーを助けたことで選挙の支持率が急上昇した事実を無視するわけにはいかなかった。スタックスの選挙参謀を務めるガイは、このチャンスを逃すまいとアニーをランチに招待。さらに、より大幅な指示率アップを狙い、アニーを里子として引き取るようスタックスに進言する。その結果、アニーはたちまちマスコミの注目の的に――。[プレスより]
舞台ミュージカル「アニー」の映画化は、82年のジョン・ヒューストン監督版に次いで二度目となるが、今回は物語の設定をオリジナルの1933年から現代のニューヨークに変更している。そのオリジナルでは、巷に失業者が溢れる大恐慌時代が重要な背景になっていたが、ウィル・グラック監督版は新たな設定からそんな空気をどのように引き出すのか。
そこで筆者が思い出すのは、1932年のアイルランドを舞台に、名もなき左翼の活動家ジミー・グラルトンの物語を描いたケン・ローチ監督の『ジミー、野を駆ける伝説』(14)のことだ。筆者は本作のレビュー(「映画.com」掲載)のなかで以下のように書いた。
「さらに、現代との繋がりも見逃せない。このドラマには、1929年のニューヨーク株式市場の大暴落に端を発する世界大恐慌が暗い影を落としている。そんな状況のなかでジミーは、地主によって不当に自宅から追い出され、妻子と路頭に迷う労働者のために立ち上がる。彼の演説にある「我々は人生を見つめ直す必要がある。欲を捨て、誠実に働こう」という言葉は、リーマン・ショック以後の世界に対するメッセージにもなっている」
大恐慌時代の空気を現代の設定から引き出すのであれば、金融危機の記憶や格差社会は避けて通れないはずだが、このウィル・グラック版ではほとんど意識されていないように見える。この映画が盛り上がりに欠けるのは、そんなところに原因がある。 |