道化師として修練を積み、あくまで道化師として映画の監督、主演、製作、脚本を手がけるドミニク・アベルとフィオナ・ゴードン。そんな異色のコンビが作り上げた長編2作品が公開される。
『アイスバーグ!』では、ファストフード店で働く主婦が、誤って店の冷凍室に閉じ込められたことをきっかけに、氷に憧れを抱くようになる。やがて彼女は、家族を顧みることなく、アイスバーグ(氷山)を目指して旅立っていく。
『ルンバ!』では、週末ごとに近県で開かれるダンス大会で優勝することを生き甲斐にする教師夫婦に、次々と災難が降りかかる。まず大会の帰りに事故に遭い、妻は左足を、夫は記憶を失う。退院後は奇行が目立ち、そろって学校をクビになる。不注意から火事を出し、我が家が灰になる。そして、一人で買い物に出た夫が家に戻れなくなり、夫婦は別々の人生を歩むことを余儀なくされる。
アベルとゴードンのコンビは、ほとんど台詞に頼らない道化師ならではの表現、つまり身体を駆使したギャグの連続で、往年のサイレント映画を髣髴させるユニークな空間を切り拓いていく。もちろん彼らの身体の運動は、単に物語をコミカルに表現してみせるだけではない。
ブエノスアイレス生まれの学者コンスタンティン・フォン・バルレーヴェンは、『道化:つまずきの現象学』のなかで、現代社会における道化師の役割や存在の意味を掘り下げている。現代社会とは、「その不自由さが気づかれぬまま雰囲気となってたえず働きかけてくるようなそういう秩序」であり、「制御可能とみなされるものだけを容認する生活空間」である。“反逆者”としての道化師は、身体と直観でそんな秩序や生活空間に攻撃を仕掛け、私たちを解放しようとする。
『アイスバーグ!』の背景には、ファストフード店やサバービアという現代社会がある。その世界はバルレーヴェンの記述に当てはまっている。ファストフード店には合理化されたシステムがあり、サバービアで反復される生活を送るヒロインの家族は、彼女が冷凍庫に閉じ込められていても、その不在に気づかない。
氷に憧れを抱くようになったヒロインは、直観に従うことで制御可能から制御不能へと移行し、秩序に攻撃を仕掛ける。特に印象に残るのは、眠りについていたヒロインが、突然とり憑かれたように暴れだし、白いシーツをかぶってベッドの上に見事な氷山を出現させる場面だ。そこでは、身体を媒介としてサバービアという人工的な空間と氷山という自然が鮮やかに対置されている。
一方、『ルンバ!』では、夫婦がクルマでダンス大会の会場に向かう場面が印象に残る。会場に到着してから衣装を忘れたことに気づいた彼らは、急いで家に戻り、時間を節約するためにクルマを運転しながら着替える。その不自由で窮屈な状況は、現代社会との関係を暗示しているように思える。だが、事故に遭ったことで彼らは制御不能へと移行する。女性教師は、庭の焚火から義足に燃え移った火をはからずも家に運び込み、我が家を灰にする。 |