アルボレア
Arborea


 
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(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ 2011年6月9日更新)

メイン州の豊かな自然、“メディア”としての音楽

  Arboreaは、Buck CurranとShanti Curranという夫婦のユニットで、メイン州を拠点に活動している。夫のBuckが、アコースティック、エレクトリック、スライド・ギター、フルート、バンジョー、ヴォーカルなどを、妻のShantiが、リード・ヴォーカル、バンジョー、ギター、パーカッション、ウクレレ、ハーモニウムなどを担当している。

Arborea Mix by Arborea

  たとえば、ニューオーリンズを拠点に活動するグループHurray for the Riff Raffや、このArboreaの音楽には、“メディア”という言葉がかつて持っていた意味を思い出させるような独特の響きを感じる。

  加藤秀俊の『メディアの発生――聖と俗をむすぶもの』では、メディアが持っていた意味がこのように説明されている。「その原型になっているのは聖俗をつなぐ「霊媒」のことでもあったのだ。そのような意味での「メディア」は現代の文明世界でもけっして消滅したわけではない

  もちろん、たとえばすでにこのサイトで取り上げているJana WinderenRichard Skeltonの音楽にもそれは当てはまる。にもかかわらず、ここで特にHurray for the Riff RaffとArboreaに注目しようとするのにはわけがある。

 Hurray for the Riff Raffの音楽の核になっているのは、ヴォーカルとバンジョーを担当するAlynda Lee Segarraであり、Arboreaの核になっているのは、ヴォーカルと主にバンジョーを担当するShanti Curranだ。彼女たちのヴォーカルとバンジョーは、聖俗をつなぐ共鳴装置になっていると思う。

 興味深いのは、彼女たちがバンジョーを弾き、歌うようになる経緯だ。

 プエルトリコ系のAlyndaは、17歳でブロンクスの家を飛び出し、放浪のなかでニューオーリンズにたどり着き、あるグループでウォッシュボードを担当することになった。そんな彼女を変えたのが、ハリケーン・カトリーナだ。

 カトリーナがニューオーリンズを襲ったとき、彼女はツアーに出ていた。変わり果てた街を目の当たりにした彼女は、放浪をやめ、ニューオーリンズに根を下ろし、知り合いのミュージシャンからもらったバンジョーを習得し、曲を作るようになった。

 そんなAlyndaはかつて、emusic.comのインタビューでこのように語っていた。「私の曲はニューオーリンズの生活と結びついていると思う。ニューオーリンズに暮らす人々は、それぞれの理由で死と密接な関係を持っていて、ここに長く暮らせば暮らすほど死が身近なものになっていく」


Wayfaring Summer (2006)
 
Arborea (2008)
 
House of Sticks (2009)
 
Red Planet (2011)
 
 

  Alyndaのヴォーカルやバンジョーは、生者と死者をつなぐ媒介、共鳴装置になっている。

 それでは、Shanti Curranの場合はどうか。夫婦は必ずしもミュージシャンを目指していたわけではない。夫のBuckはギター・ビルダーで、Shantiはカメラマンだった。ふたりで音楽をはじめるきっかけは、2005年の夏、BuckがShantiの誕生日にバンジョーをプレゼントしたことだった。

 そこで見逃せないのは、Buckが、妻にとってバンジョーが“触媒”になると考えていたことだ。では、なんの触媒なのか。彼らのインスピレーションの源になっているのは、メイン州の豊かな自然だ。夫婦は、ヘラジカやハクトウワシに遭遇するような自然のなかで生活している。

  Shantiのヴォーカルとバンジョーは、自然と人間を結ぶ共鳴装置になっている。夫婦は曲によっては、Shantiの曽祖父が立てた古い小屋でレコーディングをしているともいう。そんな自然とのつながりは、Arboreaの初期の曲である<River and Rapids>や<Black Mountain Road>のミュージックビデオによく表われている。

Wolves by Arborea from folk radio on Vimeo.

《参照/引用文献》
『メディアの発生――聖と俗をむすぶもの』 加藤秀俊●
(中央公論新社、2009年)

(upload:2012/01/13)
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《関連リンク》
Arborea blog
『Wayfaring Summer』(2006)レビュー ■
『Arborea』(2008)レビュー ■
『House of Sticks』(2009)レビュー ■
『Red Planet』(2011)レビュー ■

 
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