坂本龍一インタビュー
Interview with Ryuichi Sakamoto


2009年1月 青山
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 このアルバムでは、サウンドとノイズ、エレクトリックとアコースティック、即興と作曲など、音楽をめぐる様々な境界が消え去り、譜面にならないようなテクスチュアが生み出されていく。

「今までは電気的、電子的な音ばかりを扱う時期があって、それに飽きてアコースティックにいったり、クラシックにいったり、また戻ったりと波があったんですけど、ここにきて差がなくなってきた。最近の僕は即興と作曲の境目もよくわからない。特に、音を全部ファイルとしてハードディスクに入れて、プロトゥールズ上で扱うと、そのへんの石ころの音も、ピアノやヴァイオリンの音も、オブジェクト的に置いていっている。このアルバムに関しては、作るという表現は似合わなくて、音を拾ってきて置いているような感じなんですよね」

 



■■西洋から遠ざかり、非西洋的な時間というものに慣れていく■■

 坂本龍一の音楽は、長いキャリアのなかで始まりと終わりがある西洋的な世界観から、反復を基調とするような非西洋的な世界観へと変化しつつある。このアルバムでは、そうした流れがより明確になっている。

「そういう西洋的、一神教的な時間観というものから自覚的に遠ざかろうとしてはいます。最近は特にね。さっきのポストコロニアリズムの話ではないけれど、最初は僕も西洋的なものしかなくて、大学時代に小泉文夫さんの授業を受けたり、西洋以外の音楽を吸収していくうちに、非西洋的な時間というものにだんだん慣れてきて。でも、扱えるようになってきたのは最近のことで、やっとという感じですよ。2、4、8とか、AがあったらBにいくとか、そういう形式が本当に染み付いているんで。YMOなんて当時、新しく聞こえたかもしれないけど、非常にきちんと形式を踏んでいて、僕も細野(晴臣)さんもなんとか打破したいねといっていた。それで最近やっとですよ。クリスチャン・フェネスとやったりしてね。これでも僕は年を取ってもチャレンジしているわけですね。だからこのアルバムでは意識しているし、比重も大きくなってます。こういうのもケージが先駆者なのかな。でもドビュッシーがガムランに衝撃を受けて20世紀の音楽が始まったのだから、一回りしたのかな」

 坂本龍一は以前からその発言のなかでアニミズムに言及することがあったが、彼のチャレンジはアニミズムとも結びついていく可能性があるように思えるが。

「東京生まれの東京育ちなので、アニミズムといっても根っからあるわけではなくて、西洋的な世界観に対するものという意味合いが強いですね。人類が1万年前に農耕を始める前は、みんな狩猟採取民だったわけです。西洋的、一神教的な世界観というのは、せいぜいこの6千年くらい、農業、国家、富が存在するようになった後のもので、それが世界を支配している。だから、僕らの本来の姿は勉強しなければわからないけど、根源にある世界観はとても大事だと思うし、すごく惹かれます。僕は20世紀で一番大事な仕事をしたのは、レヴィ=ストロースだと思っているから。日本の縄文文化にも興味あるし。縄文人がどういう宇宙や世界観を持っていて、どんな音楽をやっていたのか、想像をかきたてられます」

 
《参照/引用文献》
『絹』アレッサンドロ・バリッコ ●
鈴木昭裕訳(白水社、1997年)
 
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(upload:2010/02/26)
 
 
《関連リンク》
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