テネシー州メンフィス出身のシンガーソングライター/ギタリスト、ジュリアン・ベイカーのデビュー作です。彼女は1995年生まれで、19歳でこのアルバムを完成させました。
家族で定期的に教会に通うような環境で育ったベイカーには、信仰が重要な位置を占め、それがアルバムにも表れていますが、このスタイルに至るまでには、異なる音楽的なキャリアがありました。パンクに惹かれていた彼女は、ハイスクール時代にマシュー・ギリアムと出会い、パンク・バンド、Star Killerを結成し、後にバンドはForristerと改名されます。彼女はリード・ヴォーカルとギターを担当していました。
そんなベイカーにとって、ミドル・テネシー州立大学に入学したことが大きな転機になります。バンドのメンバーや友人と離れ、学生寮に暮らす彼女は孤独に苛まれながら、ピアノとギターで曲を書きつづけました。彼女が作った曲は、非常に内省的で、バンドの方向性とは異質なものだったので、ソロとしてデモを作り、そこからこのファースト・アルバムが誕生しました。
このアルバムを聴いていてまず連想したのは、ボン・イヴェールの『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』(08)でした。バンドの分裂や彼女との破局、体調不良などの重荷を背負ったジャスティン・ヴァーノンは、2006年の冬に父親が所有するウィスコンシンの山小屋にひとりでこもり、雪に閉ざされた森のなかで、自己の音楽的な世界を見出し、このアルバムを作り上げました。
ベイカーの場合は、そこまで過酷な環境のようには見えませんが、その詞の世界に触れると、かなり自分を追い詰めて作っていることが想像されます。彼女は、自身の体験を反映したこのアルバムで、耐えがたい孤独や薬物濫用、信仰の喪失などを掘り下げています。自動車事故が起こって、救急車で運ばれたり、蛍光灯が瞬く病院の一室に横たわって、看護師から言葉をかけられるようなエピソードからは、自己破壊的な衝動が浮かび上がります。あるいは、アルコールや薬物に溺れ、居場所をなくした主人公が神に救いを求めるエピソードなど、神に語りかけるような信仰をめぐる葛藤も際立っています。
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