イット・ドント・ミーン・アイ・ドント・ラブ・ユー
/ ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ
It Don't Mean I Don't Love You / Hurray for the Riff Raff (2009)


 
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(初出:)

 

 

アイデンティティを見失ったプエルトリコ系のパンク少女が
逡巡と放浪の果てにニューオーリンズで自己に目覚めるまで

 

 『It Don’t Mean I Don’t Love You』(09)は、ニューオーリンズを拠点に活動するバンド、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフのファースト・アルバムだ。バンドのフロントウーマンで、ヴォーカル、バンジョー(後にギターもマスターする)、ソングライティングを担当しているのは、アリンダ・リー・セガラ(Alynda Lee Segarra)。彼女がバンドを結成し、独自の世界を切り拓くまでの道のりについては、「ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ――ニューオーリンズという土地に深く根ざし、聖と俗、死者と生者を繋ぐ“メディア”としての音楽」にまとめているが、ここではそのテキストでは触れなかった情報なども加え、ファースト・アルバムに至る道のりを整理しておきたい。

 アリンダ・リー・セガラは、ニューヨーク生まれのプエルトリコ系で、ブロンクスに暮らすおばとおじに育てられた。このファースト・アルバムを最初に聴いたころには、彼女の家庭の事情がよくわからなかったのだが、あとになって彼女の母親であるニンファ・セガラが、ルドルフ・ジュリアーニがニューヨーク市長だった時代に副市長を務めていたことを知った。要職にある母親が多忙を極めていたため、アリンダはおばとおじに預けられることになったのだ。

 10代前半のアリンダは、プエルトリコ系のコミュニティのなかで自分を異邦人のように感じ、アイデンティティを見出せないまま、パンクに傾倒するようになり、女友達とバンドを作ったりもした。しかしニューヨークの生活に満足できず、17歳のときに家出して、カリフォルニアを目指す放浪の旅に出る。そんな旅の途中で訪れたのが、友人が住んでいたニューオーリンズで、そこで彼女は音楽をやっている仲間たちと出会う。そして、ザ・デッド・マンズ・ストリート・オーケストラというグループでウォッシュボードを担当し、各地をツアーするようになる。


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◆Jacket◆
it don't mean
 
◆Track listing◆

01.   Meet Me In the Morning
02. Daniella
03. Fly Away
04. Skin and Bones
05. Junebug Waltz
06. Here It Comes
07. Dance With Death
08. Bricks
09. Baby Blue
10. Amelia's Song

◆Personnel◆

Hurray for the Riff Raff : Alynda Lee Segarra - vocals, banjo; Walt McClements - accordion, trumpet, vocals; Yosi Perlstein - drums, violin

(Hurray for the Riff Raff)
 

 そんなアリンダにとって大きな転機になるのがハリケーン・カトリーナだ。カトリーナがニューオーリンズに甚大な被害をもたらしたとき、彼女はそれを知らずにモントリオールをツアーしていた。そして、11月にニューオーリンズに戻り、多くのものが失われた街を目の当たりにしたとき、自分と土地との深い繋がりを痛感し、そこで生きていくことを決意する。

 アリンダは、演奏活動のなかでバンジョーの響きに魅了されるようになっていたが、そんな彼女に古いバンジョーをプレゼントしたのが、のちにハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフでプレイすることになるミュージシャン、ウォルト・マクレメンツだった。彼女は19歳の夏にニューヨークに帰り、自分で曲を書き、ラップトップに録音してニューオーリンズに戻ってきた。その曲が出発点となって、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフがかたちをなしていく。

 アリンダは、ザ・デッド・マンズ・ストリート・オーケストラのツアーをきっかけに、サンフランシスコ出身のフィドル奏者ヨシ・パールスタインと出会い、意気投合していた。そんなふたりに、ウォルト・マクレメンツが加わり、この3人編成で『It Don’t Mean I Don’t Love You』(09)と『Young Blood Blues』(10)という2枚のアルバムが生み出される。この2枚は、第一期ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフといえる。この時期のアリンダにインスピレーションをもたらしていたのは、古いブルースやマウンテン・フォーク、ストリート感覚あふれるシアトリカルなパフォーマンスなどだが、その内容については、『Young Blood Blues』のレビューで書くことにしたい。


(upload:2015/03/21)
 
 
《関連リンク》
Hurray for the Riff Raff公式サイト
ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ/Hurray for the Riff Raff
――ニューオーリンズという土地に深く根ざし
聖と俗、死者と生者を繋ぐ“メディア”としての音楽
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