ヒューマン・アクティヴィティ・スイート / ブラッド・シェピック
Human Activity Suite / Brad Shepik (2009)


 
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(初出:Into the Wild 1.0 | 大場正明ブログ 2009年4月14日更新)

エコロジーへの関心とグローバルなヴィジョン

 ブラッド・シェピックは、ファリード・ハークやレズ・アバシとはまた違った意味で、グローバルなヴィジョンを持ったギタリスト/コンポーザーだ。このニューアルバムは、地球の気候変動や温暖化をテーマにした10曲からなる組曲であり、彼の才能が発揮された力作だ。

 企画の出発点は、ドリス・デューク慈善財団の資金で運営されているChamber Music Americaという団体からの依頼だが、テーマはシェピック自身が決めている。組曲は、南米、北米、南極、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、オーストラリア という七大陸をそれぞれテーマにした7曲と、炭素、海流、人間活動をテーマにした3曲で構成されている。

 このような作品を作るためには、テーマに対する関心がなければならないし、それを音楽的に表現する資質も必要だが、シェピックはその両方を備えているといえる。


◆Jacket◆
human activity
 
◆Track listing◆

01.   Lima (South America)
02. Blindspot (North America)
03. Human Activity
04. Stir (Antarctica)
05. Not So Far (Australia)
06. Current
07. Carbonic
08. Blue Marble (Africa)
09. By a Foot (Europe)
10. Waves (Asia)

◆Personnel◆

Brad Shepik: electric guitar, acoustic guitar, tambura, electric saz; Ralph Alessi: trumpet; Gary Versace: piano, organ, accordion; Drew Gress: bass; Tom Rainey: drums.

(Songlines Recordings)
 

 たとえば、彼のこれまでのアルバムの曲名やジャケット・アートは常に、環境、風土、自然、土地、地理、生命などと関わっていた。そして音楽的には、ジャズやブルースと東欧、中東、北アフリカなどの民族音楽を結びつける世界を切り開いてきた。

 ウェブで目にしたインタビューによれば、シェピックは子供の頃、ワシントン州のシアトル近郊の森や川に囲まれた地域で、ハイキングやキャンプ、フライ・ フィッシングを楽しむ生活を送った。だがやがて人口が増加し、開発が進み、環境が変わってしまったという。環境問題に関心を持った彼は、ジャレド・ダイア モンド、アラン・ワイズマン、デイヴィッド・クォメン、エドワード・ホーグランドらの著作を読み、テーマを掘り下げてきた。

 そして今回、関心を表現する機会を得たシェピックは、これまで馴染みのなかった地域の音楽を聴き、ダイアモンドやワイズマンの本を参考にして、組曲を作り上 げた。このテーマを音楽で表現することは容易ではないが、彼のグローバルなヴィジョンがこれまで以上に鮮明になっていることは間違いない。


(upload:2011/11/07)
 
 
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