『Ancients Speak』は、ベーシストのメルヴィン・ギブズが率いるユニット“Elevated Entity”のアルバムだ。
ギブズは、オーネット・コールマン、デファンクト、デコーディング・ソサエティ、アンビシャス・ラヴァーズ、パワー・トゥールズ、ロリンズ・バンドなどの グループ、ソニー・シャーロック、グレッグ・テイト、ジョン・ゾーン、デイヴィッド・バーン、カエターノ・ヴェローゾ、マリーザ・モンチ、フェミ・クティ らとのコラボレーションなど、ジャンルを問わず、多方面で活動を展開してきた。
このアルバムには、そんなギブスの独自のヴィジョンが刻み込まれている。曲によっては、ピート・コージー、ジョン・メデスキ、クレイグ・タボーンも参加し、ギブスとは長い付き合いのアート・リンゼイがコ・プロデューサーに名前を連ねている。
ギブズのヴィジョンの鍵を握るのは、"ブラック・アトランティック"という連結関係といってよいだろう。ポール・ギルロイは『ブラック・アトランティック』のなかで、それをこのように説明している。
「その歴史的連結関係とは、感覚し、生産し、コミュニケートしあい、記憶する構造のなかで離散した黒人たちが創出し、しかしもはや黒人たちだけが占有して いるわけではない立体音響的で、二重言語的で二重の焦点を持った文化の形式のことである。この構造のことを、私はさらなる発見のためにブラック・アトラン ティック[黒い大西洋]世界と呼んだのだった」
このアルバムでは、アフリカとアフロ・ブラジリアン、アフロ・キューバン、アフロ・カリビアン、アフロ・アメリカンの音楽が融合していく。それは、単に異なる多様なジャンルが取り込まれているということではない。
ギブズは、呪術的なヴォイスやリズムによって時間や空間の隔たりを消し去り、この歴史的連結関係から世界と個人を結びつけるスピリチュアリティを引き出そ うとする。アフリカの部族の歌とラップ、アフリカやブラジルのリズムにドラムンベース、ジャズやロックやファンクなどが融合して生み出される独特のグルー ブは、ただ聴いているだけでもかっこいいが、ブラック・ディアスポラをめぐるギブスのヴィジョンはかなり奥が深い。 |