「岩手の鉱山廃墟は高度経済成長期に実際に雲上の楽園≠ニ言われたところで、2000年に「NONFIX」というテレビ番組で行きました。かつて人が住んでいたのに今はもういないという事実にすごく引かれ、いつかそこで撮りたいと思っていたんです。それで今回の企画にこの廃墟を入れ、さらにロケハンやシナハンのために、荒木経惟が団地を撮った写真集『都市の幸福』を持って、多摩や千葉などニュータウンをけっこう回りました。今のリアルな団地ではそれぞれに生活が営まれているんだけど、やがて人がいなくなるような気配がすでに漂っている感じがありました。
グローバリゼーションとか均質化しているといわれる世界のなかで、みんな居場所というか、確かなものを見出せずに生きていると思うんですよね。そこで、確かなものを探す人たちの物語を積み重ねる上で、かつて人が住んでいた廃墟と、今は住んでいてもやがていなくなるかもしれない団地を結びつけて何かできないかと。そういう構想が最初にあり、実際に撮影することでどんどん具体化していったところはあると思います」
空に伸びる町は人工的な世界だが、この映画ではその背景に山や海という自然が配置され、町や登場人物たちを静かに包み込んでいくような印象を与える。
「それは最初は意識してなかったですね。むしろ多摩ニュータウンあたりをリアルに撮れないかと思ってたんですが、ロケハンに行ったら、あまりぴんと来なかった。山から町を見下ろすような違うベクトル、第三の視点がほしいということだったんだと思います。もっと言うと、この映画では当事者性というか、手持ちカメラでできるだけ人物に寄り添い、間近で心情を見つめ続けるような撮り方をしているんですが、そればかりではなく、遠目で見ている視点がほしいなと思った。だから海とか山とか、ちょっと遠方から見ているような、そういう場所の選び方はしていますね」
一年かけて撮影された映画には、四季が織り込まれているだけではない。登場人物たちは、桜の花や蝉の抜け殻、落ち葉、夜空に舞う雪など、人工的な世界とは異質のものに触れていく。
「長いスパンの話なので、四季を通して時間を描けないかと思っていました。みんなが確かなものを探しているとして、今の世界ではそれに触れるというのがなかなか難しいじゃないですか。その距離を縮めたいという思いがあって、桜や雪、雨でもいいんですが、身体に触れてくるものを描くことも大事な気がして入れました。桜の花や落ち葉にはそれぞれに輝きがあって、悲惨な話の中にもそれに触れる一瞬があったみたいな、世界との隙間を狭めることを狙ってやったと思います」===>2ページに続く |