『ペルシャ猫を誰も知らない』でまず注目すべきなのは、その舞台だろう。これまで故郷のクルディスタンで映画を作り続けてきたゴバディ監督は、この新作で大都市テヘランを舞台に選び、ゲリラ撮影を敢行した。
「私はクルド人なので、クルド人が抱えている問題、彼らが受けている差別や偏見を映画にしてきました。クルディスタンの町や村の経済状況があまりにも酷いということを伝えるのが主な目的でした。私がテヘランに目を向けたのは、この大都市の本当の姿を見せたかったからです。そのために最初に企画したのが『私についての60秒』だったのです。これはある作家の一生を描く映画で、彼は最後に死刑を宣告されます。イランではいまだに作家や芸術家が処刑されるということを伝えたかった。しかし、そのシナリオでは許可を得られないので、本当のことを隠し、作家を泥棒に変えて文化指導省に提出したのですが、結局だめでした。そこで、まったく違うかたちでテヘランを描くことにしたのです」
■■バンドの演奏場面だけでなく、テヘランの状況を伝える映像を■■
『ペルシャ猫を誰も知らない』が誕生するきっかけは、音楽好きのゴバディ監督がテヘランの録音スタジオで無許可で歌をレコーディングしているときに、アンダーグラウンドで活動するミュージシャンたちと出会ったことだった。
「そういうミュージシャンたちがいることは知っていましたが、それまで実際に会って、話をしたことはありませんでした。私を含めた普通のイラン人は、政府によって彼らが背教者や悪魔崇拝者、薬物中毒者であるかのようなでたらめなイメージを植え付けられ、人間扱いしていませんでした。彼らと関わりたくないと思うように洗脳されていたのです。以前から音楽活動をしたいと思っていた私は、たまたま彼らと知り合い、これまで自分が思い描いていたイメージと実際の彼らがまったく違うことに大きなショックを受けました。そして、彼らがどのような活動をしているのか興味を持ち、彼らの本当の姿を見せるためにこの映画を作りました。ここに描かれているのは、実際にあった出来事です」
映画の主人公は、実際にテイク・イット・イージー・ホスピタル≠ニいうユニット名で活動するアシュカンとネガルだ。無許可で演奏したために逮捕された彼らは、バンドのメンバーを探して最後のコンサートを開き、音楽活動のために国外に出ようとする(彼らは撮影後にイランを離れ、現在はロンドンで活動している)。この映画では、主人公がメンバーを探す展開を通して、インディ・ロック、フュージョン、ブルース、メタル、ラップなど様々なジャンルのバンドが登場し、彼らの音楽の豊かさには驚きを覚える。=====>2ページに続く |