マチュー・カソヴィッツ・インタビュー

1998年 青山
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(初出:日本版「Esquire」1998年6月号、若干の加筆)
家族や師弟の絆を分断するテレビの脅威

 『アサシンズ』は、『憎しみ』の成功で世界の注目を浴びた新鋭マチュー・カソヴィッツの待望の新作だ。この映画の主人公は、老いた殺し屋ワグネル、そして奇妙な成行きで彼から殺しの手ほどきを受けることになる25歳のマックスと13歳のメディという世代の異なる若者たち。

 『憎しみ』が粒子の粗いモノクロ映像だったのに対して、 『アサシンズ』は全編カラーでフィクショナルな展開が際立つばかりか、テレビ番組やそのパロディ、CMやゲームの映像などが大胆に挿入され、ドラマを引き裂いていく。

 しかし暴力に対するカソヴィッツの鋭い眼差しは『憎しみ』と何ら変わっていない。2本の映画では、暴力について経験や免疫を持つ者と未熟で衝動に左右される者が対比的に描かれ、双方の絆が崩壊するとき、現代を象徴するような暴力が浮き彫りとなる。

「『アサシンズ』における老いた殺し屋ワグネルとその弟子の関係は、知識を伝達するという意味で非常に重要なものだと思う。不幸なことに現代では、何を伝達すべきか無自覚なテレビが、教師や両親に取って代わり、知識や経験が子供に受け継がれなくなっている。必ずしも100%とはいわないが、 大多数の人はテレビを通じて情報を受けとりながら、その本質をまったく認識していない。情報を送り出すテレビ側も何も考えていない。そうやって仕事や人生、生命に対する倫理観が失われていくんだ」

 マックスやメディは、本当の親との関係が希薄であり、ワグネルと彼らは、擬似的な父と子の関係を築いていくかに見える。

「確かに、マックスにはあまり家族という意識がなく、だからこそ彼にとっては、ワグネルが父親的な役割を担うことになる。しかしながらワグネルは、メディの父親や先生にはなっていない。メディの精神というのは腐敗してしまっていて、教師や父親という存在を受け入れる土台が何もないんだ」


◆プロフィール
マチュー・カソヴィッツ
1967年8月3日生まれ。母親はプロデューサーでもあるシャンタル・レミ、父親は映画監督のペテ・カソヴィッツ。78年に父親が監督した"AU BOUT DU BOUT DU BANC"に俳優として出演。監督作は、90年の"FIERROT LE POU"を第1作に短編を発表し、93年には初の長編「カフェ・オ・レ」を監督。脚本、出演もこなしたこの作品は、本国及びニューヨーク映画祭でも絶賛された。 続く95年の長編第2作「憎しみ」では、カンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、フランス映画界の若き旗手として、大きな注目を集めた。この作品では現代フランスに生きる若者の姿をリアルに捉え、彼らの漠とした不安感を見事に切りとっている。97年には長編第3作「アサシンズ」を発表。老暗殺者が自分の後継者を育てようとするこの作品には、 ゲーム等のメディアによって人間的感情を無くしてしまった少年が登場し、低年齢化する凶悪犯罪に対するカソヴィッツ監督の鋭い主張が込められている。
(「クリムゾン・リバー」劇場用パンフレットより引用)

 

 



  オリヴァー・ストーンの『ナチュラル・ボーン・キラーズ』には、50年代のシットコムのグロテスクなパロディが盛り込まれていたが、『アサシンズ』にもこれに似たパロディが印象に残る。

「もともとは子供向けの番組で、それがセックスがあったり血が飛び散るグロテスクなパロディになっているけど、本質にあるものは(元ネタと)同じだと思う。今のわれわれにはやり過ぎに見えるかもしれないが、現代の物事の進み方からすれば、10年後にはあれが普通になっていないとは絶対に言い切れない。ディズニーがアニメを作り始めたときには、 まさか日本人がアニメでここまでバイオレンスやセックスを描くとは想像だにしなかっただろう。いま日本で起こっている凶悪犯罪の低年齢化については、若者の意識にアニメなどのイメージが残っていて、影響を与えていないとは絶対に言えない。だからといって、そういうものをすべて検閲して、排除しろと言っているのではない。 あのグロテスクな番組を見るのはメディであって、あれは現実ではなく、メディの幻想と見ることもできるだろう」

 アメリカではレーガン時代の保守化のなかで、ヒップホップやブラック・ムーヴィーが先鋭化した。フランスにもそれに似た状況があったように思えるが…。

「そうした反動的な社会に対するひとつの答が『憎しみ』であり、移民の監督たちだけではなく、ぼくやジャン=フランソワ・リシェのような白人監督もそうした社会問題を題材にしている。しかしフランスはアメリカみたいに保守化することはない。フランスには保守的であることを意味する言葉もないんだ」

  カソヴィッツはアメリカ映画から多大な影響を受けているといわれるが、彼の作品に一貫しているラディカルな姿勢は、非常にフランス的というべきなのかもしれない。


(upload:2001/05/27)
 
《関連リンク》
フランスにおける移民をめぐる問題 ■
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