BK ヒロインは最初に誘惑されるわけですが、飛行というのも一種の誘惑なのです。人類はたえず鳥のように飛ぶことに誘惑されてきました。この飛行と人間の成長には深い繋がりがある。たとえば少年が大きくなってくると、橋の上に立って下を見下ろしてみたり、高いところに登りたいという欲求が起こります。
これは一種の飛行なのです。そういう行為をしているときに、少年は成長しているといえるのです。科学的にもそういう事実があるらしいです。
BK 最初からそうしようと思いました。というのも、産婦人科の診察台というのは、ひどいものだと思っていたんです。どうして人間を診るのに顔を見ないのかってね。だから、まったく違うことをやりたかった。それから、ヒロインが誘惑されて、知らないうちに妊娠してしまい、ああいうものに無縁であることを表現したかった。
そこで反対に座って、小鳥のように両手を広げるというふうにしたんです。あれは意識的にいつかやってみたいと思っていました。ひっくり返すようなことを。
――当然、映画の流れのなかにある"飛ぶ"という意味も含まれているわけですよね。
BK 映画を作っているときには、それほど意識的に結びつけてなかったですね。それはもう観客ひとりひとりの意識とか受け取り方でしょうね。そういう関連を見つけ出していただいてとても嬉しいです。
――ヒロインに国とか国家を意味する名前をつけたのはどうしてですか。
BK ソビエト連邦が崩壊して、いろいろな独立国家ができましたね。ところが、それらの国々が賄賂だの汚職だのギャングだのといったことを抱え込んで、結局は弱者を苛めたりしている。
ヒロインもやはり、悪い意味での伝統に固執している人たちから唾を吐きかけられ、苛められます。だからそのふたつを重ねて、象徴のようにしたかった。それであの名前を使ったのです。
―ルナ・パパ―
◆スタッフ◆
監督
バフティヤル・フドイナザーロフ
Bakhtiar Khudojnazarov
原作/脚本
イラークリ・ナザーロフ
Irakli Kwirikadze
撮影
マーティン・グシュラハト、ドゥシャン・ヨクシモヴィッチ、ロスチスラフ・ビルーモフ、ラーリ・ラルチェフ
Martin Gschacht, Dusan Joksimovic, Rostislav Pirumov, Rali Ralchev
BK 最終的にどこに行くのかはわかりません。リアリズムに行くのか、純粋にファンタジーに行ってしまうのか。たとえば、サッカーとかホッケーのようなスポーツこそは、ファンタスティック・リアリズムの非常に純粋なかたちを提示しているのではないでしょうか。
みんなが不思議なかっこうで走り回り、ボールを蹴って、すごいお金が飛び交って、数百万の人々が好奇心を持って見入り、パパにもママにも地位にも性にも、パンにも神にも悪魔にも何にも結びつかない。映画もそんな風になってほしいんですが、そこまで行き着けるかどうか。