『春にして君を想う』や『コールド・フィーバー』といった作品でアイスランドの日常に息づく神話的な土壌を見つめるフリドリック・トール・フリドリクソン監督。新作『精霊の島』では、戦後も米軍が駐留し、アメリカ文化が流れ込んでくる50年代のアイスランドを舞台に、ある家族の物語が綴られる。
「相反するふたつの文化が同時に存在し、ものすごいパワーや狂気を生みだした特別な時代だった。伝統を守ろうと激しい反米運動も起こったが、いまから振り返ると米軍が駐留してよかったと思う。結果的にはアイスランドの伝統に磨きをかけ、豊かなものにすることになったからだ」
4世代にわたる主人公一家は米軍が残していったバラックに暮らし、アメリカにかぶれて居場所を失うエディと飛行士になって大空から自分の世界を発見するダンニの兄弟、彼らを見守る祖父母などの姿が生き生きと描き出されていく。
「あの時代にはどんなことでも起こりうるということを描きたかった。バラックの住人は貧しく、苛められることもあったが、ある時期、国民の半分がそんな生活をしていたことを忘れてはいけない。バラックの世界はある意味でアイスランド全体の縮図であり、そのコミュニティから偉大な詩人が生まれたり、独自の文化を育む土壌にもなった」
さらにこの映画の世界では、人智を超えた力も影響を及ぼしている。悪魔が登場人物を皮肉な運命に導くのだ。
「超自然的な現象というのは私にとってとても自然なことだ。アイスランドの人間はみんな、妖精、怪物、幽霊など、超自然的なものを信じているし、実際に見たという人もいる。いま作業を進めているドキュメンタリーもアイスランドの怪物に関するものだ。超自然的なものを、現実とまったく変わらないものとみなすから、アメリカ映画にはないリアリティが生まれるのだと思う」 |