フリドリック・トール・フリドリクソン・インタビュー
Interview with Fridrik Thor Fridriksson


1998年
精霊の島/Devil's Island――1996年/アイスランド/カラー/103分/ヴィスタ/ドルビーSR
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(初出:日本版「Esquire」1999年2月号、若干の加筆)

 

 

「墓石を作るのと同じ気持ちで作っている」
――『精霊の島』(1996)

 

 『春にして君を想う』や『コールド・フィーバー』といった作品でアイスランドの日常に息づく神話的な土壌を見つめるフリドリック・トール・フリドリクソン監督。新作『精霊の島』では、戦後も米軍が駐留し、アメリカ文化が流れ込んでくる50年代のアイスランドを舞台に、ある家族の物語が綴られる。

「相反するふたつの文化が同時に存在し、ものすごいパワーや狂気を生みだした特別な時代だった。伝統を守ろうと激しい反米運動も起こったが、いまから振り返ると米軍が駐留してよかったと思う。結果的にはアイスランドの伝統に磨きをかけ、豊かなものにすることになったからだ」

 4世代にわたる主人公一家は米軍が残していったバラックに暮らし、アメリカにかぶれて居場所を失うエディと飛行士になって大空から自分の世界を発見するダンニの兄弟、彼らを見守る祖父母などの姿が生き生きと描き出されていく。

「あの時代にはどんなことでも起こりうるということを描きたかった。バラックの住人は貧しく、苛められることもあったが、ある時期、国民の半分がそんな生活をしていたことを忘れてはいけない。バラックの世界はある意味でアイスランド全体の縮図であり、そのコミュニティから偉大な詩人が生まれたり、独自の文化を育む土壌にもなった」

 さらにこの映画の世界では、人智を超えた力も影響を及ぼしている。悪魔が登場人物を皮肉な運命に導くのだ。

「超自然的な現象というのは私にとってとても自然なことだ。アイスランドの人間はみんな、妖精、怪物、幽霊など、超自然的なものを信じているし、実際に見たという人もいる。いま作業を進めているドキュメンタリーもアイスランドの怪物に関するものだ。超自然的なものを、現実とまったく変わらないものとみなすから、アメリカ映画にはないリアリティが生まれるのだと思う」


◆プロフィール◆

フリドリック・トール・フリドリクソン
1954年アイスランド生まれ。高校時代よりほぼ独学で映画を学ぶ。93年に長編第2作『春にして君を想う』が世界各国で23の賞を受賞。その後『ムービーデイズ』、『コールド・フィーバー』(永瀬正敏主演)など次々と監督作を発表、世界各国で認められた。

 

 


  フリドリクソンの映画では、必ず葬式や供養が物語に盛り込まれているが、この映画でも墓地でのドラマが非常に印象に残る。

「葬式は人が人生についてじっくり考えられる唯一の大切な時間だと思う。私は墓石を作る仕事を10年間ほどやっていたんだが、映画も墓石を作るのと同じ気持ちで作っている」

 『精霊の島』は、50年代という特別な時代とその時代を生きたすべての人々に対するフリドリクソンの深い愛情と惜別の気持ちをフィルムに刻み込んだモニュメントのような作品といってよいだろう。


(upload:2014/09/10)
 
 
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