[概要] 今回、ワン・ビン監督が撮影したのは、中国南西部雲南省にある、社会から隔離された精神病院。この病院には、200人以上の患者が収容され、中には入院して20年以上になる者もいる。患者たちは多種多様で、暴力的な患者、非暴力的な患者、法的に精神異常というレッテルを貼られた者、薬物中毒やアルコール中毒の者、さらには、政治的な陳情行為をした者や「一人っ子政策」に違反した者までもが、“異常なふるまい”を理由に収容されている。 [プレスより]
中国の鬼才ワン・ビン監督が雲南省にある精神病院の患者たちを撮影した『収容病棟』は、93年に出版された馬小虎の写真集『忘れられた人々』を思い出させる。そこには、北京出身のこの写真家が、89年から90年にかけて全国に散在する38の精神病院を回って出会った患者たちの姿が収められていた。
『収容病棟』が撮影されたのは昨年のことで、写真集と映画には20年以上の隔たりがある。その間に中国では改革開放が加速し、社会が大きな変貌を遂げたが、この二つの世界はそんな隔たりをほとんど感じさせない。
それは、単に極めて閉鎖的で殺伐とした空間が背景になっているから似た空気が漂うということではない。写真家も監督も、患者たちが世間や国から忘れられた、見えない人々であることを強く意識している。
しかしだからといって、隠された現実をジャーナリスティックな視点で暴き出そうとするわけではない。まずなによりも閉ざされた空間で繰り返される日常に溶け込み、その一部になろうとする。そんなアプローチが、時代に縛られない世界を切り拓いていく。 |