タミル語映画のヒットメイカーとハリウッドで活躍するインド系プロデューサーが手を組んで作った『ジーンズ/世界は2人のために』は、ミス・ワールドをヒロインに起用し、世界六カ国でロケを敢行するなど、実に贅沢な作品になっている。しかし筆者にとってそんな贅沢さよりも印象に残るのが、ドラマの流れに見え隠れするアメリカとインド双方の要素の絡み合いだ。
映画の前半の舞台はロサンゼルス。双子の兄弟ヴィスとラムーは、父親ナーチャッパンに男手ひとつで育てられ、そろって医大に通っている。ヴィスは、叔母の手術に立ち会うためにマドラスからやって来た美女マドゥと恋に落ちるが、父親は彼らの結婚に猛反対する。
実は父親もまた双子で、インドで暮らしているときに、兄弟それぞれの結婚が悲劇を招いた過去があり、双子の息子はまったく同じに育て、双子の姉妹と結婚させようと固く心に誓っていたのだ。ところが、そこでマドゥの気持ちを察した叔母が、姪にも双子の妹がいると嘘をつき、マドゥは二役を演じるはめになる。
そんな展開のなかで、この映画の俳優と登場人物の関係はややこしいことになってくる。もともと双子の息子、双子の父親が、一人二役で演じられ、合成の多用によってひとつの画面に頻繁に一緒に登場することに加えて、今度はドラマのなかでマドゥが一人二役を演じる。面白いのは、そんな三者が演じる一人二役のなかにアメリカとインド双方の要素が見え隠れすることだ。
たとえば、アメリカを舞台にしたミュージカル・シーンでは、ディズニーランドやユニヴァーサル・スタジオ、ラスヴェガスなど、極めて人工的な複製文化の世界が背景を彩り、何から何まで瓜二つのヴィスとラムーはそんな見せかけの世界の申し子のように見える。
これに対して、同じ空間に存在できるはずのないマドゥは、ホログラフィという複製技術を駆使して、双子が存在するかのように見せかける。そしてついには、父親が自分の双子の兄弟を助けたいという思いから、もともとの一人二役に加えてさらに兄弟を演じるはめになり、そこで初めて自分の過ちに気づくことになる。 |