ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
The Last Black Man in San Francisco


2019年/アメリカ/英語/カラー/120分/ビスタサイズ
line
(初出:「ニューズウィーク日本版」映画の境界線2020年10月8日更新)

 

 

ジェントリフィケーションによって変貌するサンフランシスコ
環境汚染と黒人版『不思議の国のアリス』とイニシエーション

 

[Introduction] いま、世界の映画シーンでその動向が最も注目されている映画会社A24とプランBが、アカデミー賞作品賞に輝いた『ムーンライト』以来となるタッグを組んだのが『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』だ。新鋭監督ジョー・タルボットは、2019年サンダンス映画祭で上映された本作で、監督賞と審査員特別賞をW受賞し、華々しい長編映画デビューを果たした。

 幼なじみでもあるタルボットと主演のジミー・フェイルズは、友情、家族、そして目まぐるしく変わっていくサンフランシスコという街への愛情を丹念に描くことに成功した。この映画は、自らが存在するコミュニティの大切さ、そして本来の自分になるために自問する一人の男の姿を描いた秀逸なパーソナル・ストーリーだ。主人公ジミーは、自分たちを取り残したまま経済発展や都市開発によって急速に変わっていく街で、親友のモントとともに心の置きどころを探し求めている。(プレス参照)

[Story] サンフランシスコで生まれ育ったジミーは、祖父が建て、かつて家族と暮らした思い出の宿るヴィクトリアン様式の美しい家を愛していた。変わりゆく街の中にあって、地区の景観とともに観光名所になっていたその家は、ある日現在の家主が手放すことになり売りに出される。
再びこの家を手に入れたいと願い奔走するジミーは、叔母に預けていた家具を取り戻し、いまはあまり良い関係にあるとは言えない父を訪ねて思いを語る。
そんなジミーの切実な思いを、友人モントは、いつも静かに支えていた。
いまや都市開発・産業発展によって、“最もお金のかかる街”となったサンフランシスコで、彼は失くしたものを、自分の心の在りどころであるこの家を取り戻すことができるのだろうか。

 ニューズウィーク日本版の筆者コラム「映画の境界線」で本作を取り上げています。その記事をお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。

オバマ大統領がベストムービーに選出した『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/原案   ジョー・タルボット
Joe Talbot
原案 ジミー・フェイルズ
Jimmie Fails
脚本 ロブ・リチャート
Rob Richert
撮影 アダム・ニューポート・ベラ
Alfonso Maiorana
編集 デヴィッド・マークス
Alfonso Maiorana
音楽 エミール・モセリ
Alfonso Maiorana
 
◆キャスト◆
 
ジミー・フェイルズ   ジミー・フェイルズ
Jimmie Fails
モンゴメリー・アレン ジョナサン・メジャース
Jonathan Majors
ジェームズ・シニア ロブ・モーガン
Rob Morgan
ワンダ・フェイルズ ティチーナ・アーノルド
Tichina Arnold
ボビー マイク・エップス
Mike Epps
クレイトン・ニューサム フィン・ウィットロック
Finn Wittrock
グランパ・アレン ダニー・グローヴァー
Danny Glover
-
(配給:ファントム・フィルム)
 

[メモ]

バリー・ジェンキンス監督の『ムーンライト』のレビューでは、ジェンキンスの長編デビュー作『Medicine for Melancholy』(08)のことも紹介しているが、この映画もまたサンフランシスコのジェントリフィケーションとそこに暮らす黒人の立場をテーマにしているので、比較してみると興味深い。

● ドラマのなかに、何度か環境汚染を示唆する場面がある。ハンターズ・ポイントにあった海軍造船所には核関連施設もあり、のちに大規模な除染が行われたが、いまだに近隣住民に健康被害があるともいわれる。

 

(upload:2021/12/21)
 
 
《関連リンク》
バリー・ジェンキンス 『ムーンライト』 レビュー ■
レーガン時代、黒人/女性/同性愛者であることの痛みと覚醒――
サファイアの『プッシュ』とリー・ダニエルズ監督『プレシャス』をめぐって
■

 
 
amazon.comへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp