NY心霊捜査官
Deliver Us from Evil


2014年/アメリカ/カラー/118分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

刑事もの×オカルトもの
方向性の定まらない映画化

 

[ストーリー] ある夜、ニューヨーク市警のラルフ・サーキは、動物園で子供をライオンの檻に投げ捨てた女性を逮捕する。彼女は何かにとり憑かれたかのように震え、ドアーズの曲を唱え続けていた。また別の夜に逮捕した妻に暴力を振るった男も、何かにとり憑かれたかのように暴れていた。ラルフはこのまったく別の事件の捜査を通して、自分にしか聴こえない、見えない“何か”を感じていた――。

 神父のジョー・メンドーサがラルフを訪ね、「その“能力”を捜査に使え」と助言する。その能力とは悪霊の姿が見え、声が聞こえる“霊感”のこと。ジョーは気付いていた、まったく別の事件が悪霊によるものだと。まだ悪霊の存在を信じられないラルフだが、それぞれの事件現場に残された “INVOCAMUS”という謎の言葉を見つけ、悪霊の存在を強く感じるようになる。 ラルフは能力を活かした心霊捜査に乗り出し、ジョーと共に次第に人間ではない容疑者に近づいていくが――。

 『NY心霊捜査官』の原作は、超常現象に関わる事件の捜査にあたった実在のNYPD警官ラルフ・サーキの手記『Deliver Us from Evil: A New York City Cop Investigates the Supernatural』。ずいぶん前に『エクソシスト・コップ――NY心霊事件ファイル』(講談社、2001年)として日本語版も出版されている。それを映画化したのが、『エミリー・ローズ』や『フッテージ』のスコット・デリクソン監督なので、異様な緊張感を生み出す演出や映像には、確かに見応えがある。

 ただし、映画化の方向性が定まっていない。実話という要素を重視するのであれば、ある程度、原作の世界を反映する必要がある。しかし、映画の冒頭から原作を離れた脚色がされていることがわかる。映画は、原作の時代背景よりもずっと後の2010年のイラクの砂漠地帯から始まり、その4年後のニューヨーク、ブロンクスを舞台に物語が展開していく。

 筆者はだいぶ前に、原作そのものへの関心からではなく、サタニズムとのつながりで本書を斜め読みしたことがあるが、それでも映画がかなり脚色されていることがわかる。いくつかのエピソードの設定の一部を取り込んでいるだけで、ほとんどフィクションとしてまとめられている。筆者は原作者のサーキが、この映画をどう見ているのか気になり、ネットのインタビューを読んでみた。彼は、映画を批判しているわけではないが、原作の背景や文脈とは違った娯楽作品というように評していた。

 もちろん、原作を離れ、独自の世界を切り拓こうとしているのであれば、大幅に脚色することは悪いことではない。興味深いのは、映画が2010年のイラクから始まることだ。そこで3人の海兵隊員が敵を追ううちに、地下の洞窟に紛れ込み、暗闇のなかで恐ろしいものを目撃する。それがなんであるのかはその場ではわからないが、このプロローグは『エクソシスト』のそれを思い出させる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚色   スコット・デリクソン
Scott Derrickson
脚色 ポール・ハリス・ボードマン
Paul Harris Boardman
原作 ラルフ・サーキ、リサ・コリアー・クール
Ralph Sarchie, Lisa Collier Cool
撮影 スコット・ケヴァン
Scott Kevan
編集 ジェイソン・ヘルマン
Jason Hellmann
音楽 クリストファー・ヤング
Christopher Young
 
◆キャスト◆
 
サーキ   エリック・バナ
Eric Bana
メンドーサ エドガー・ラミレス
Edgar Ramirez
ジェン オリヴィア・マン
Olivia Man
ジミー クリス・コイ
Chris Coy
ゴードン ドリアン・ミシック
Dorian Missick
サンティノ ショーン・ハリス
Sean Harris
バトラー ジョエル・マクヘイル
Joel McHale
-
(配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)
 

 ニューヨークで次々と起こる奇妙な事件の謎を追うラルフ・サーキとジョー・メンドーサは、それらの背景にイラク戦争があるのを突き止める。しかし、戦争という要素はあくまでアイデアにとどまっている。もし、PTSDのような戦争の現実と超常現象を結びつけるような野心があれば、この映画はもっとリアルで奥が深いものになったかもしれない。


(upload:2014/09/13)
 
 
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