ガールファイト
Girlfight  Girlfight
(2000) on IMDb


2000年/アメリカ/カラー/110分/ヴィスタ/ドルビーSR・SDDS
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(初出:「キネマ旬報」2001年6月上旬号)

 

 

商業性と意地やプライドのぶつかり合い

 

 『リビング・イン・オブリビオン』や『リアル・ブロンド』で知られるトム・ディチロは、アメリカのインディーズ映画を代表する監督のひとりである。2年前にそのディチロにインタビューしたとき、彼はこんなことを語っていた。「アメリカのインディーズ界の現状はひどく厳しい。昔とは違うんだ。商売にならないかもしれない映画のリスクを背負う奴なんていないんだよ」。

 『ガールファイト』の監督クサマは、様々なインタビューで、この長編デビュー作が作家としての彼女の本質よりもいくぶん商業的な作品になっていると語っている。厳しい状況にあるインディーズ映画界で、作品を作るのではなく、作りつづけていくためには、デビューするだけでもいろいろな苦労があるのだ。サンダンス映画祭でグランプリに輝けば、そんなことは忘れてしまう作家もいるかもしれないが、彼女はこだわる。ジョン・セイルズが手を貸すだけのことはある、誠実でシリアスな監督なのだ。

 ヒロインは、父と弟の3人でブルックリンにあるレッド・フック低所得者用住宅に暮らしている。レッド・フックで思い出すのは、黒人監督マティ・リッチが19歳でデビューを飾った『ストレート・アウト・オブ・ブルックリン』だ。この映画の主人公一家も同じ住宅に暮らし、家族を支えられない不甲斐なさから父親は酒に溺れ、逆に家族を苦しめている。主人公の若者は、そこから出ていくために過ちを犯し、家族を崩壊に追いやってしまう。『ガールファイト』の父親も母親を自殺に追いやり、自堕落な生活を送っているが、ヒロインはボクシングに希望を見出していく。

 そんな展開には確かに商業的な部分を垣間見ることができる。『ストレート・アウト・オブ・ブルックリン』が、観客が逃げ場を失うような凄まじいリアリティで迫るのに対して、ストーリーを支えにしているところがあるからだ。しかしそれゆえに、この映画には商業性とクサマの意地やプライドとのぶつかり合いがあり、それがダイナミズムを生みだしている。

 たとえば、フラメンコのサウンドをバックに、ヒロインがもの凄い形相でこちらを睨みつけるオープニングには、意表を突かれる。そこには、ヒロインだけではなくクサマの闘争心も剥き出しにされている。ヒロインが恋するボクサーの若者に、"ロッキー"の恋人であるエイドリアンと同じ名前を付けているのも、決して偶然ではないだろう。そんなふたりはクライマックスで、リングの外ではなく上で、殴りあいながらお互いの気持ちを確認していくのである。


◆スタッフ◆

監督/脚本
カリン・クサマ
Karyn Kusama
製作 セーラ・グリーン/ マーサ・グリフィン/ マギー・レンジィ
Sarah Green/ Martha Griffin/ Maggie Renzi
製作総指揮 ジョン・セイルズ/ ジョナサン・セーリング/ キャロライン・カプラン
John Sayles/ Jonathan Sehring/ Caroline Kaplan
撮影 パトリック・ケイディ
Patrick Cady
編集 プラミー・タッカー
Plummy Tucker
音楽 テオドール・シャピロ
Theodore Shapiro

◆キャスト◆

ダイアナ
ミシェル・ロドリゲス
Michelle Rodriguez
エイドリアン サンティアゴ・ダグラス
Santiago Douglas
ヘクター ジェイミー・ティレリ
Jaime Tirelli
サンドロ ポール・カルデロン
Paul Calderon
タイニー レイ・サンティアゴ
Ray Santiago
マリソル エリサ・ボカネグラ
Elisa Bocanegra
(配給:松竹)
 


 しかしもちろん、このぶつかり合いだけが魅力の映画ではない。ジェントリフィケーションから取り残されたようなブルックリンの一角を、ヒロインの心象風景のように切り取る映像には、この監督の非凡なセンスが感じられる。そして何よりも、ボクシングを通してヒロインが獲得するのは、強さや信頼だけではない。これまで学校や家庭で孤立してきた彼女は、トレーナーのヘクターを中心としたヒスパニックのコミュニティのなかで、自分の居場所を明確にし、未来を切り開くための歴史や伝統に触れることになるのだ。


(upload:2001/10/06)
 
 

《関連リンク》
トム・ディチロ・インタビュー ■
『ストレート・アウト・オブ・ブルックリン』レビュー ■


 
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