ぼくのアーティストとしての感性は、ポップ&ロック的、何でもありなんだけど、それでいてある種古典主義的なところがある。どちらからも得るものがあると信じているんだけど、ポップの感性はわれわれの文化に大いに貢献したとは思う。
アートとは何か、アートはどうあるべきかという概念を緩めてくれた。古典主義者が啓蒙しようとするほどお堅いものじゃなくていいんだと教えてくれた。
でも、またもやこの映画の原点に戻るけど、文化のなかのこういったイコン=イメージが強くなりすぎて、人々が、それが薄っぺらなものだと見分けられなくなってしまった気がする。世界中の人が、イコンしか存在しない作り物の世界に身を投じることにとらわれているとしか思えない。
最近ぼくが興味をそそられるのは、そういうことなんだ。イメージって何だろう。いい面もあるんだけど、基盤が100万分の1の薄さしかない文化を形成しつつあるように思えるんだ」
物語の中心となるもうひと組のカップル、失業中の役者ジョーとメイクアップ・アーティストのメアリーは、付き合いも長く、簡単には思い込みにとらわれたりしないように見える。しかし、ジョーはマドンナらしき人物から電話をもらって、舞い上がってしまう。
このマドンナについては、ビデオ・クリップの撮影現場まで再現され、ディチロが言うポップのイメージが浮き彫りにされている。
「そうだな…マドンナに関するコメントはちょっと気をつけなきゃならないんだ。曲の使用許可を取るのに、例のシーンを見てもらわなきゃいけなかったからね(笑)。彼女をリスペクトしてなかったり、否定しているように聞こえる言動をするつもりは毛頭ないんだけど、
でもマドンナが世界で一番素晴らしい歌手だとは思ってないし…いいよね、今のは言っても…自分のイメージ作りにものすごいエネルギーを費やしてる。 だからこそ、この作品の要素として彼女を選んだんだ。 マドンナのキャリアを追うと、基本的に6ヶ月ごとに自分のペルソナ、つまり、視覚的な外観を変えている。
でも、人々が彼女への興味を失わないようにそうしなきゃならないってことが、かなり妙だと思うんだ。そうは言っても、彼女が国際的なスターになったってこと自体、すごく興味深くもあり、怖くもあり、あるいは警戒心を抱かせる。人間が、別のある人間から、
まったく現実味のない何かを作ってしまうその行程がね…名前だってそうだよ、ジーザスの母親の名前を自分につけてること自体、ものすごくおかしいと思う(笑)」
このドラマのなかで一番愉快なのは、酒場で主人公たちがジェーン・カンピオンの「ピアノ・レッスン」について論争を始めると、周囲にそれが伝染し、店中がこの映画の論争を始めるところだろう。マドンナがポップのイメージを象徴しているとするなら、この「ピアノ・レッスン」はアートのイメージを象徴しているといえる。
「ぼくにはあの映画はちょっとバカバカしすぎて、他の人たち、特に世界中の映画評論家たちほどシリアスに受け止めることができなかったんだ。 だって、まさにリアルじゃないイメージを作り上げているじゃないか。(あの頃は)どこに行っても「ピアノ・レッスン」「ピアノ・レッスン」って大騒ぎだったけど、
ぼくがあの映画を見て最初に思ったのは、何でさっさとピアノを海岸から動かさないんだろうって事だったんだよ。で、気づいたんだけど、それをやっちゃたら波に晒されるピアノの映像を撮れなくなっちゃうんだよね。 ぼくにとってあの作品は、ドラッグストアで売ってるような、流行遅れの女性向けロマン小説って感じだ。
だったらいっそ映画で使ってやろうと思って取り入れたわけだ。
だって「リアル・ブロンド」は現実の人間関係の映画なんだからね。「ピアノ・レッスン」の方は、長髪のピアス男がやって来て、ある女を、彼女を縛り付けようとする旦那から引き離して、二人でどっかに行って、いつまでも幸せに暮らしましたって話だよ。はっきり言って、そんなの馬のクソって感じだ。
完膚なきまでに嘘っぱちで、バカげてる。たとえばぼくだったら、1年後にはどうなってるんだろうって考えてみる。ハーベイ・カイテルとホリー・ハンターが口論をしたら?それなら観てみたいよ。 とにかく、本物のカップルとして奮闘するジョーとメアリーと対比するのにぴったりだったから、「ピアノ・レッスン」を使ったんだ。
現実の世界で日々カップルたちが葛藤しているようなことを描く方がぼくは面白いと思うから」
この映画では、現実と虚構の微妙な力関係というものが印象的に描かれている。たとえば、サハラをめぐるドラマでは、彼女は最初は女性カメラマンの操り人形のような存在だが、彼女の私生活が次第に写真の虚構の世界に入り込んでいく。
まず顔の青痣が虚構を捻じ曲げ、ついには写真のなかで彼女が本来持っている母性が力を発揮することになる。これはボブとソープオペラの関係にも当てはまる。こうした発想はどこから生まれてくるのだろうか。===>2ページへ続く |