[ストーリー] 物語の舞台は、アメリカとソ連が一触即発の冷戦状態にあった1950〜60年代。主人公のジェームズ・ドノヴァンは、実在のアメリカ人弁護士。保険の分野で実直にキャリアを積み重ねてきた男だが、「誰でも弁護される権利がある」という信念のもとソ連のスパイの弁護を引き受けたことをきっかけに、思いがけなく国際交渉の世界に足を踏み入れることになる。
時の大統領ジョン・F・ケネディがドノヴァンに与えたミッション――それは、ドノヴァンが弁護したソ連のスパイと、ソ連に捕らえられたアメリカ人パイロットの交換を成し遂げることだった。交渉の場は、敵地の東ベルリン。判断を誤れば即射殺という緊迫した状況のもと、ドノヴァンの孤立無援の闘いが始まる。[プレスより引用]
スティーヴン・スピルバーグの新作です。自分に相応しい題材を選び出す彼の眼力は大したものだとあらためて思いました。筆者が「スティーヴン・スピルバーグ――偽りの世界としてのサバービア/アメリカ」で掘り下げた独自の視点がしっかりと埋め込まれています。
[以下、本作のレビューになります]
実話に基づくスティーヴン・スピルバーグの新作『ブリッジ・オブ・スパイ』は、米ソが冷戦状態にあった1957年に、ソ連のスパイ、ルドルフ・アベルがニューヨークでFBIに逮捕されるところから始まる。そのスパイの裁判で、国選弁護人として政府が白羽の矢を立てたのが、ジェームズ・ドノヴァン。法曹界で一目置かれる存在だった彼は、世間の激しい批判を浴びながらも弁護に尽力し、アベルは極刑を免れる。だが、二人の関係はそれで終わらない。5年後、米軍偵察機のパイロットがソ連に拘束され、アベルとの交換の交渉役にドノヴァンが任命され、彼は敵地の東ベルリンに単身で乗り込むことになる。
この映画を観てまず感じるのは、自分に相応しい題材を選び出すスピルバーグの眼力がまったく衰えていないことだ。少年時代に人種差別や両親の離婚を体験した彼は、表層的で画一的なサバービア(郊外住宅地)の世界に強い違和感を覚えるようになった。やがて映画監督となった彼は、違和感を基に本物と偽物が鮮やかに転倒するような独特の話術を身につけていく。『A.I.』や『マイノリティ・リポート』では、人間とロボット、現実と予知をめぐって最終的に本物と偽物が逆転する。
新作にもその話術が引き継がれていることは、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』と対比してみるとよくわかる。『キャッチ〜』に登場する詐欺師フランクは、本物の世界に潜む偽者といえる。そんなフランクを執拗に追うFBI捜査官カールは、偽物としての彼を受け入れている唯一の人物であり、偽物であることを見抜きつづけることによって、いつしか二人は本物の家族のようになる。 |