[ストーリー] 1975年、サウス・ボストン。アイルランド系移民が多く住むこの地域を、人々は“サウシー”と呼ぶ。ここで“ウィンターヒル”ギャングを率いるジェームズ・バルジャーは、北ボストンのイタリア系マフィア、アンジェロ・ファミリーと抗争を繰り広げていた。
数年ぶりにサウシーへ戻ってきたFBI捜査官のジョン・コノリーは、マフィア浄化に取り組む組織でのし上がるため、バルジャーに話を持ちかける。FBIにマフィアの情報を売らないか? 実はコノリーとバルジャー、そして彼の弟でマサチューセッツ州上院議員のビリーは、サウシーで生まれ育った幼なじみだった。
当初は協定を拒んだものの、アンジェロ・ファミリーを叩き潰すチャンスととらえたバルジャーは、情報屋になることを決意する。“ウィンターヒル”ギャングのボスとして、ハロラン、ウィークス、フレミら部下とともに悪事に手を染める一方、恋人のリンジーと幼い息子ダグラスには精一杯の愛情を注ぐバルジャー。しかしダグラスが重い病に侵され、命を失うと、彼の狂気は歯止めが利かなくなっていく。
『クレイジー・ハート』(09)、『ファーナス/訣別の朝』(13)のスコット・クーパー監督の新作です。物語は、ボストンの裏社会を支配し、FBIの最重要指名手配犯となった犯罪王ジェームズ・バルジャーの実話に基づいています。
[以下、レビューになります]
実話に基づく『ブラック・スキャンダル』に登場するジェームズ・バルジャー、ジョン・コノリー、そしてバルジャーの弟ビリーという3人の主人公。彼らは、アイルランド系移民が多く暮らすサウス・ボストン、通称“サウシー”で育った幼なじみだ。この映画では、そんな地縁が彼らの運命に様々な影響を及ぼしていく。
では、サウシーという土地で培われる地縁とはどのようなものなのか。サウシーを舞台にした映画を振り返ってみると、映像作家たちを惹きつけてきたのが、貧しく希望があるとはいえない地域で、善悪や決まりに縛られることなく喜怒哀楽を共有するような強い絆であることがわかる。具体的には、『グッド・ウィル・ハンティング』(97)、『サウス・ボストン(※ビデオ・タイトル)』(98)、『ミスティック・リバー』(03)、『ディパーテッド』(06)、『クロッシング・デイ』(08)といった作品を挙げることができる。
そのなかでサウシーの基本といえるものを確認できるのが、『サウス・ボストン』と『クロッシング・デイ』だ。『サウス・ボストン』は、主人公ダニーが久しぶりに故郷サウシーに戻ってくるところから始まる。かつてギャングと対立したことが原因で街を離れたダニーは、堅気の道を歩もうとするが、昔の仲間や弟がギャングとの間にトラブルを抱え、彼も抗争に巻き込まれていく。実話に基づく『クロッシング・デイ』では、サウシーで育った幼なじみのブライアンとポーリーが、どん底の生活から抜け出すためにギャングになり、服役し、再び危ない橋を渡ろうとする。
この二作品で、ギャングの支配や抗争とともに見逃せないのが、主人公と仲間の強い絆だ。同性間の社会的な絆を意味する“ホモソーシャル”という言葉があるが、サウシーでは他の地域以上に男同士のホモソーシャルな連帯関係が際立ち、主人公の運命を変えていくことになる。 |