フォー・ブラザーズ/狼たちの誓い
Four Brothers


2005年/アメリカ/カラー/108分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:「Pause」、若干の加筆)

70年代へのオマージュと現在のデトロイト

 ジョン・シングルトン監督の『フォー・ブラザーズ/狼たちの誓い』には、ふたつの見所がある。ひとつは、主人公となる4兄弟のキャラクターだ。長男のボビーと四男のジャックは白人で、次男のジェリーと三男のエンジェルは黒人だ。

 実は彼らは、里親の世話人であるエブリンに育てられた。というか、彼らがあまりにも問題児であったために、里親が見つからず、彼女が養子にするしかなかったのだ。そんな養母が強盗に殺害され、デトロイトに帰郷した彼らは、復讐を決意する。

 シングルトンの『シャフト』(00)は、70年代のブラックスプロイテーション・フィルムのリメイクでありながら、主人公にマチズモ的な要素が希薄だった。それに比べると、この映画のボビーやエンジェルは、マチズモが際立つ。そんな挑発的なキャラクターとバックに流れるモータウンを意識したナンバーは、70年代へのオマージュになっている。

 そしてもうひとつは、ミステリの要素だ。強盗による行きずり犯行だと思われた事件は、計画的な殺人だったことが次第に明らかになる。事件の背後からは、デトロイトのインナーシティの再開発をめぐる利権争いが浮かび上がる。

 オマージュだけではなく、現在のデトロイトの状況が題材になってもいるのだ。しかし、こちらの見所には問題がないわけではない。

 たとえば、エミネムが主演したカーティス・ハンソン監督の『8mile』では、デトロイトの荒廃したインナーシティの日常をリアルに浮き彫りにすることで、ホワイトトラッシュの主人公と黒人の仲間たちの絆がリアルなものになっていく。


◆スタッフ◆
 
監督   ジョン・シングルトン
John Singleton
脚本 ポール・ラヴェット、デヴィット・エリオット
Paul Lovett, David Elliot
撮影 ピーター・メンジースJr.
Peter Menzies Jr.
編集 ビリー・フォックス、アレクサンダー・ガルシア、ブルース・キャノン
Billy Fox, Alexander Garcia, Bruce Cannon
音楽 デヴィッド・アーノルド、エド・シェアマー
David Arnold, Ed Shearmur
 
◆キャスト◆
 
ボビー   マーク・ウォールバーグ
Mark Wahlberg
エンジェル タイリース・ギブソン
Tyrese Gibson
ジェリー アンドレ・ベンジャミン
Andre Benjamin
ジャック ギャレット・ヘドランド
Garrett Hedlund
エブリン フィオヌラ・フラナガン
Fionnula Flanagan
グリーン警部 テレンス・ハワード
Terrence Howard
ビクター キウェテル・イジョフォー
Chiwetel Ejiofor
ファウラー刑事 ジョシュ・チャールズ
Josh Charles
-
(配給:UIP)
 

 ところが、この『フォー・ブラザーズ』のデトロイトには、そういう空気がもうひとつ伝わってこない。なぜなら、かなりの場面がカナダのトロントとオンタリオ州内で撮影されているからだ。

 カナダはアメリカよりも映画の制作コストが安くつくため、アメリカ映画の企画がカナダに持ち込まれて制作されるケースが確実に増えている。90年代のアメリカ映画を多角的な視点から分析した評論集『The End of Cinema As We Know It』には、アメリカとカナダの映画産業の密接な関係をテーマにした論文も収められ、そのなかでは、アメリカから仕事が安定供給されることで、トロントやヴァンクーヴァーがハリウッドやニューヨークに代わる産業の中心地としての地位を確立する可能性も指摘されている。

 但し、この映画のように、舞台が重要な意味を持つ作品の場合にはロケ地にこだわるべきではないのか。そこで思い出されるのは、シングルトンが、自分が生きてきたLAのサウスセントラルの現実をリアルに描き出した『ボーイズ’ン・ザ・フッド』でデビューしたことだ。そんな監督が、娯楽作品とはいえ、現在のデトロイトをこのように描いてしまうのは少々寂しい気がする。

《参照文献》
『The End of Cinema As We Know It : American Film in the Nineties』
edited by Jon Lewis●

(New York University Press,2001)

(upload:2014/01/11)
 
 
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