致死率100%のウイルス性の疫病が蔓延し、人類が死滅しかけている世界。限られた予算でそんな世界を描くためには、空間や視野を限定する必要がある。ベンツに乗ったブライアンとダニーの兄弟、ブライアンの恋人ボビー、ダニーが想いを寄せるケイトの目的地は最初から決まっている。かつて兄弟が両親と夏を過ごしたメキシコ湾のビーチだ。
映画の冒頭には、楽しかったビーチの思い出が浮かび上がる。この映画は、主人公のうちの何人かが生きのび、ビーチにたどり着くまでに、人と人の関係がどれほど変化してしまうのかを描き出そうとする。
ダニー・ボイル監督の『28日後…』では、新種のウイルスに感染した人間は瞬く間に凶暴な獣に変貌する。だから、生き残るためには、感染したのがたとえ肉親であろうともすぐに殺さなければならない。感染者と非感染者との間では、葛藤の余地がほとんど残されていない。
この『フェーズ6』では、ウイルスに感染しても人間性まで失われるわけではない。感染者と非感染者との間には常に葛藤が生じる。スペイン出身のアレックス&デヴィッド・パストー兄弟は、登場人物たちの立場を次々に逆転させていくことで、その心理を掘り下げていく。
たとえば、映画の前半で主人公たちは、ガス欠で助けを求める父親と娘に遭遇する。だが、娘が感染していることに気づき、体を張って車を止めようとする父親を振り切って、その場を後にする。だが、それから間もなく彼らの車が故障し、ガソリンを持って親子のもとへ引き返す。一方、映画の後半では、今度は主人公の車がガス欠になるが、そこに至るまでのサバイバルのなかで彼らは人間性を失いつつある。だから、非感染者同士のガソリンの奪い合いは、修羅場と化していく。
見離される感染者は無力感に打ちのめされ、手段を選ばずに生き残る非感染者は人間性を失う。無事にビーチにたどり着いた者は、かつて夏を過ごした思い出の場所で、苦痛に満ちた記憶に苛まれながら生きていくことになるだろう。 |