パトリス・ルコントの新作『ぼくの大切なともだち』の導入部には、この監督のスタイルを逆手にとるような面白さがある。たとえば、『タンデム』や『列車に乗った男』などでは、男同士の友情や絆というものが、含みのある様々なエピソードを通してさり気なく描き出されていた。しかし、この新作の場合にはそういうわけにはいかない。
はじまりは、美術商であるフランソワの誕生日を祝う食事会だ。フランソワは、会話の流れのなかで、そこに集まった人々がみな彼には親友がいないと思っていることを知る。納得できない彼は、ある賭けをしてしまう。10日以内に親友を披露しなければ、競り落とした高額な壷を失うことになるのだ。
高を括っていたフランソワだが、実際に思い当たる友人を訪ねてみると、誰も相手にしてくれない。これまで仕事だけを生き甲斐にしてきたからだ。焦った彼は、誰とでも親しくなれるタクシー運転手ブリュノにノウハウを学ぼうとする。そんな姿は滑稽だが、もちろんただのコメディでは終わらない。
ブリュノは、実は心に傷を抱え、クイズ番組に出場する夢を支えにしていた。骨董という「物」だけを友とするフランソワと、知識という「情報」だけを友とするブリュノ。そこには、勝ち組と負け組の孤独を見ることができる。
ルコントは、ひねりを効かせた展開のなかで友情と愛について考察を加え、勝ち組と負け組の格差や異性愛者と同性愛者の壁を壊していく。この映画では、次第にルコントならではの繊細な人間ドラマが紡ぎ出されていくだけではなく、導入部のエピソードにも友情が潜んでいたことがやがて明らかになるのだ。
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